かぐや姫の大ヒット曲「神田川」で知られる作詞家・喜多條忠(きたじょう・まこと)さん(本名同じ)が11月22日に、肺がんのため死去した。74歳だった。

「メランコリー」(梓みちよ)「やさしい悪魔」「暑中お見舞い申し上げます」「アン・ドゥ・トロワ」(いずれもキャンディーズ)「ハロー・グッバイ」(柏原芳恵)など数々のヒット曲を作詞した。

そんな喜多條さんを語る時に外せないのが、やはりかぐや姫の「神田川」(73年)「赤ちょうちん」(74年)「妹」(74年)である。4畳半フォーク3部作とも言われる。学生運動の熱が急速に冷めた時代の、青春群像を歌った。3作でレコード売上枚数250万枚以上の大ヒットとなった。

74年には3作品とも映画化された。最初が日活映画「赤ちょうちん」(藤田敏八監督)で、高岡健二と秋吉久美子の主演で74年3月に公開された。東京を舞台に人間関係になじめず引っ越しを繰り返す若いカップルの生きざまを描いた。

続いて東宝映画「神田川」(出目昌伸監督)。レコードの発売はもっとも早かったが、ミリオン作品だけに映画化権の争奪となり、「赤ちょうちん」の次となった。関根恵子、草刈正雄の主演で74年4月に公開された。もっとも歌詞の内容とはリンクせず、銭湯に行くシーンも、クレパスで似顔絵を描くシーンも登場せず、楽曲同様の大ヒットとはならなかった。

最後が日活映画「妹」で74年8月に公開された。「赤ちょうちん」と同じく藤田敏八監督がメガホンを取った。ヒロインは「赤ちょうちん」と同じく秋吉久美子で、兄役は林隆三さんだった。

「キネマ旬報ベスト・テン90回全史」(キネマ旬報社)による74年の日本映画のベストテンは、<1>サンダカン八番娼館 望郷<2>砂の器<3>華麗なる一族<4>青春の蹉跌<5>竜馬暗殺<6>わが道<7>仁義なき戦い 頂上作戦<8>襤褸(らんる)の旗<9>赤ちょうちん<10>妹、だった。「神田川」は45位だった。

この3部作でかぐや姫は一躍人気グループとなった。そして秋吉久美子はこの年、「赤ちょうちん」「妹」に続き、同じく藤田敏八監督の日活映画「バージンブルース」にも主演。同名主題歌を作家の野坂昭如氏が歌い話題となった映画でもあった。秋吉はこの3作品で第12回ゴールデンアロー賞映画新人賞を受賞し、女優として開花した。

喜多條さんの3部作が、かぐや姫はもちろん、名女優秋吉久美子を育てたと言っても過言ではない。【笹森文彦】