今年2月の北京五輪を前に国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢が問われている。コロナ禍で1年延期となった東京五輪は国民に感動を与えながらも課題を残し、北京五輪に関しては中国の人権問題に対して複数の国が外交ボイコットを表明した。そんな中、アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストの山本博氏(59=日体大教)が取材に応じ、大舞台のあり方について激白。ロングインタビュー第1回は「彭帥問題」から見えてきた〝IOCの体質〟を分析する。


【山本先生と考える五輪の「現在」と「未来」(1)】

 ――女子テニスの彭帥が中国の張高麗元副首相に性的関係を強要されたと告発した後に消息不明となった問題は、IOCが早い段階で火消しを図ったのが世界的な印象ですが

 山本氏(以下山本) 今回、世界の方々も違和感を感じられたのは(トーマス)バッハ会長がオンライン面談というか、確認作業ともいえる行動に移りましたよね。内容はスッキリしませんでしたし、わざわざこのタイミングでやったことに関して、五輪を控えている中国に対しては、少し緩いなという印象を受けましたね。

 ――というと

 山本 2008年北京五輪では会場建設に伴って、住民が一斉に立ち退きさせられたり、国内でいろんな問題が起きたんですよね。しかし、IOCは独立的な団体であることから、人道的なことはほとんど話題にすることなく、大会成功に向けて協力しました。そのときと同じような印象を受けました。

 ――08年北京五輪は聖火リレーにも注目が集まった

 山本 新疆ウイグル自治区の人権問題とか、そういったことについて、聖火リレーに妨害とかいろんなことが起きましたよね。普通、あのようなことが起きたら縮小や計画変更を中国に進言してもよかったのではと個人的には感じます。結局、その後どうなったかといえば、聖火リレーは世界を回らず、国内のみのコースで開催されるようになりましたから。

 ――その一方、女子テニス協会(WTA)は中国での大会開催を一時は見送るなど、批判的な態度を貫いている

 山本 芯が通っていますよね。中国で大会を開かないということは、財政的にマイナスになる。それでも、協会はあえて選手の人権を守っていくことを前面に出しているのでしょう。彭帥さんはテニスのファミリーの一部だという意識があると思います。

 ――ファミリーの一部

 山本 例えば自分の娘が嫌な目に遭ったとして、その相手が取引先の大事な人だった。この人との取引がなくなったら生活に支障をきたすとはいえ、家族だったら娘のために毅然とした態度をとるじゃないですか。WTAは素晴らしい強さを持っている、選手を本当に大事にする協会だなと思いましたね。

 ――IOCはどうすべきだったと考えるか

 山本 IOCは開催する権利を中国(北京)に提供しています。そこで仮に人権などで問題的な行動や疑いのある行動が発覚すれば、しっかりと注意、是正させるべきです。今回の場合、感染症の関係で国外にということは難しかったのでしょうが、例えばオンラインではなく彭帥さんを(IOCの)拠点のスイス・ローザンヌなど国外に移動させて事情を聞いてほしかったですね。


 ☆やまもと・ひろし 1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年ロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪・パラリンピック組織委員会顧問など多方面で活躍中。