【多事蹴論(26)】ヘアスタイルも重要な武器だった――。W杯など国際舞台で欧米列強との戦いに臨む日本代表イレブンは、日々の鍛錬に励むとともに勝利のため、髪形にこだわる選手も多くいる。2002年日韓W杯を指揮したフィリップ・トルシエ監督時代から長い間、日本のエースナンバー10を背負っていた“天才レフティー”のMF中村俊輔もその一人だ。

 俊輔は1997年にJ1横浜Mに入団した当時から、あえて前髪が目にかかるくらいまで伸ばしている。アイドルやホスト並みともいえるような長めの前髪で現在もほぼ同じ髪形だ。アスリートにはあまりふさわしくないとの意見も出ている中、日本代表で俊輔とプレーした同僚選手は「どこにパスを出すとか、相手に次のプレーを読まれないようにするため、前髪を長めにして目線を隠しているんですよ。そこは俊輔のこだわりですよ」と語っていた。

 華麗なテクニックで相手を翻弄し、必殺のスルーパスで味方のゴールを演出したり、FKで直接ゴールを狙う――。そんな場面ではマッチアップする敵選手や相手GKとの駆け引きが必要となる。その“戦い”を制するためにも、俊輔は自身の目線を前髪で隠すことにより次のプレーを相手に読まれないようにし、FKでもGKに狙いを悟らせないため、前髪を伸ばしているわけだ。

 その効果は海外でも発揮された。05年から所属したスコットランド・プレミアリーグのセルティック時代には、欧州チャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)戦でFKから直接ゴールを決め、チームを初の決勝トーナメント進出に導いた。世界に「NAKAMURA」の名前をとどろかせたが、長めの前髪が役立ったのは間違いないだろう。

 その一方で、俊輔が多くのアシストを演出していたのは、自身のヘアスタイルだけが理由ではなかった。日本代表の歴代得点ランキングでFW柳沢敦と同じ14位となる17得点を記録しているDF中沢佑二は、そのゴールの多くを俊輔からのアシストで叩き出している。CKやFKの好機でキッカーを務める俊輔から精度の高いボールが供給されるからこそ、中沢はDFながらストライカー並みの得点を決めたわけだ。

 さらに2人は00年シドニー五輪代表で戦った同僚であり、横浜Mでもチームメートだった縁もあって相性もばっちりだった。中沢は代表でのゴールについて「それは俊輔のおかげでしょう」と10番への感謝を口にしていたが、俊輔本人は「あの頭だから、目立つから」とポツリ。中沢の愛称としても知られている“ボンバーヘッド”が大きな決め手になっていたという。

 もちろん、俊輔が好プレーを発揮できたのは厳しい練習の成果だが、その上で髪形まで気を配ったからこそ日本に多くの勝利を届けられたといえそうだ。