落語家春風亭小朝(65)が作家菊池寛の短編小説をもとに創作した落語などを収めた「菊池寛が落語になる日」(文芸春秋)を出版した。

2016年から菊池寛作品の落語化に挑み、「入れ札」「マスク」「うばすて山」など20席を作り上げた。「菊池寛さんが創業した文芸春秋で本を出したいと言ってきたので、有言実行した自分を『えらい』とほめたい」。

菊池寛は「恩讐の彼方に」「父帰る」などで知られる作家である一方で、実業家として文芸春秋を創業し、芥川賞、直木賞を創設した。「僕の誕生日が3月6日で、同じ日に亡くなった方を調べたら菊池寛さんがいた。ご縁があると思って、短編集を読んだら面白くて、これは落語になると思ったのがきっかけです」。

同書では小朝の落語9席と、原作となった短編小説を並べて掲載している。「菊池寛さんの小説は着眼点が面白く、心のひだをクローズアップして、作品のタッチも好きなんです。落語と小説の両方を楽しんで、菊池さんも面白いと思ってくれたらうれしい」。

「菊池寛が落語になる日」と題した独演会を定期的に行い、ネタおろしをしてきた。「古典なら、お客さんの半数はどんな内容かを知っているけれど、こればかりは皆さん、初めての噺(はなし)なので、聴いている時の集中力がすごかった。もともとの菊池ファンの方も興味を持って来てくださった」と振り返る。

落語にする過程での苦労はあまりなかったという。「さげが決まれば、すぐに書き上げることができました。落語の作り方が分かって、いい経験でした」。

1月29日の独演会(新宿・紀伊国屋ホール)で披露する1席を最後に、菊池作品の落語化はいったん終えるという。「でも、脳の神経は使った方がいいので、落語を作ることは続けていきたい。今度は中国小説を落語にすることを考えています。三遊亭円朝師匠の『牡丹灯籠』とかも題材は中国。奇妙な作品が多くて、不思議な面白さがある」と、新たなプランを明かした。6月18日には文芸春秋創刊100周年記念の独演会(東京・紀尾井町ホール)も予定している。