古豪復活の裏にカープレジェンドの存在――。春夏7度の甲子園優勝を誇る名門・広島商(広島)が28日、20年ぶり22度目のセンバツ出場を決めた。秋の中国大会決勝で広陵(広島)に屈して準優勝に終わったが、切磋琢磨する永遠のライバルとともに同時出場で春の切符を手にした。

 近年、全国的な強豪として高校野球界をリードしている広陵に広商が追いつき、切磋琢磨する意義は極めて大きい。元々、強烈なライバル心を抱く両校。広商が強くなれば、広陵はさらにその上を行こうとする。そのサイクルがさらに強まれば、2校の独走を阻もうと他校も刺激を受け、広島高校野球界全体の底上げにつながるからだ。

 ソフトバンクの主砲・柳田悠岐外野手(33)らプロ野球界をけん引する選手を輩出するも、近年は甲子園から遠ざかっていた古豪。2018年から指揮を執る荒谷忠勝監督は、センバツ出場決定の知らせを受けると「支えてくださる方々のおかげ。感謝の気持ちでいっぱいです」と、就任以来2度目となる聖地帰還の喜びを語った。

 2019年夏まで15年間も甲子園に縁のなかった名門が、久々のセンバツ出場。ここにきて古豪復活の勢いが顕著になってきたのは、なぜか。日々汗を流す選手の努力と現場指導者の情熱があってこそだが、忘れてはならない〝功労者〟がいるとチーム関係者は口をそろえる。「OBの達川さん、そして元カープの大野豊さんに来てもらったのは大きかったと思います」と、しみじみと語るのは広商野球部・花坪研部長だ。

 学生野球資格を回復後に各地で高校野球の指導に当たっている元広島監督の達川光男氏(66)はOBで、1973年夏の優勝メンバー。ソフトバンクのヘッドコーチを18年に退任した翌年から定期的に母校を指導すると、その年に夏の選手権大会出場、さらには今回の選抜大会出場と存在感が際立っている。

 達川氏本人は「ワシの言葉なんて今の子には響かんよ。どっかの爺さんが教えに来とるくらいしか思っとらんから」と照れ隠しするが、アマチュア球界では〝野球どころ〟広島における高校野球への貢献度を認める声は多い。達川氏は現役時代にバッテリーを組んだカープのレジェンド左腕・大野豊氏(66)に「ワシは捕る専門。投げることは教えられんから来てくれ」と大野氏の資格回復を機に招聘。投手陣の整備が大きな課題だった現チームの強化に一役買った。

「落ちる球は大野さんに教えてもらいました」とは、エース候補として期待される神野智投手。資格回復者の指導は、招聘を希望する学校から高野連に申請する形で認められている。

 広商には、この他にも一昨年限りで現役を退いた元広島で捕手として活躍した石原慶幸氏(42=昨年資格回復)が要請を受けて指導に訪れたこともあるという。ここ数年「広島の高校生捕手のレベルが高い」とアマチュア球界から聞こえてくるのは、広島新庄など各地で指導に赴いている達川氏らの存在が無縁ではない。

 近年〝アマ野球回帰〟でイチロー氏(48=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が大きな注目を集めているが、カープのお膝元で高校野球のレベルが上がっていることも見逃せない。