作家で国会議員や東京都知事を務めた石原慎太郎さんが亡くなっていたことが1日、明らかになりました。89歳。

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写真の色紙は、石原氏が99年東京都知事選に立候補した際、テリー伊藤氏との対談企画で日刊スポーツ読者に寄せてくれたものです。

左利きで筆ペンを走らせる姿が印象に残ります。文壇では大変な“悪筆”として知られ、「出版社ごとに解読の専門編集者がいる」「石原氏自身もたまに読めない」などの都市伝説も有名でした。色紙に書いてくれた文字はちゃんと読めるのでまじまじと見ていると、「あなたのためにちゃんと書いたんだよ」と初対面の女性記者に、意外なほどソフトな笑顔で自虐し、一同を笑わせてくれました。

色紙に記したのは、福沢諭吉の「立国は公にあらず。私なり。」。国家を動かすのは政治家や官僚などの「公」ではなく、個人の強い意識であるという解釈で、好んで使う一節とのことでした。実際、「公」の人たちよりも、人が思いつかない独創的な発想で世の中を変える市井の人(特に若い人)が大好き。そんな石原氏らしい座右の銘だと感じます。

対談では、小学生女児が書いた海の生き物の絵を「マリンジャンボ」として飛行機に塗装した全日空と、女児のかわいい絵を絶賛しています。今でこそ機体のスペシャル塗装はポピュラーですが、当時は画期的な試み。自身もクリエイターであるためか、こういう民間パワー、若い人の発想力を語る石原氏は本当に楽しそうでした。

逆に、ディズニーに莫大(ばくだい)な著作権使用料を払って二番煎じをした元半官半民の最大手を「バカ」と一刀両断。そもそも、対談の冒頭から猛烈な官僚批判から始まっています。「夢がない、プラスアルファがない」と感じる存在には手加減がなく、そんな石原節をデリケートな令和にあらためて聞き返すと、いろいろ圧倒されるばかりです。

個性的な言動が批判を集めることも多くありましたが、「物書きは1行でも書けばズタズタに斬られるのは覚悟の上でやるわけだからね。言っていることがちょろいのはダメだと思う」。好みは人それぞれですが、骨の髄まで表現者なのだと、あらためて実感するばかりです。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)