北京五輪開幕前日の3日、現地で国際オリンピック委員会(IOC)総会が開かれた。1日に死去した作家で元東京都知事、元国会議員の石原慎太郎さん(享年89)はIOCを「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」と伏魔殿のように表現し、創作者としても関心を抱いている様子だった。

 都知事として2016年五輪の招致を推進し、リオデジャネイロに敗れた後、20年大会への立候補を決めた石原さん。2度目の招致では任期途中に知事を退任したが、16年大会については開催都市を決める09年のIOC総会(コペンハーゲン)に乗り込みプレゼンテーションを行った。

 石原氏にとって五輪招致における国際ロビー活動は新鮮な体験で、作家として興味を感じていることが報道陣とのやり取りでうかがえた。開催理念や計画への評価だけで票を投じるとは限らないIOCサークルは「魑魅魍魎」とたびたび語り、一方で五輪招致を巡る外交などの活動は「小説のテーマになる」という趣旨の話も記者たちに語っていた。

 招致活動について「裏も表もあるゲーム。政治の世界というのは裏の裏は表じゃない。もっと裏で何だかワケが分からないワケ。そういう世界が結局オリンピックの招致ゲームの中に持ち込まれている」とイベントで語ったこともある。

「一種の処女体験」とも称した招致レース。コペンハーゲンで2度目の投票で敗退した後に「政治的ゲームの結果」と発言してリオ側の猛反発を招いたことも。

 英国のIOC委員セバスチャン・コー氏(12年ロンドン大会組織委員会会長)が「東京のプレゼンは最高だった」と言って肩をすくめたという話を、口癖のようにさまざまな場で披露もしていた。「IOC委員は自分がどこに投票したかを公表すべきだ」と訴えたこともある。

 14年の政界引退後、精力的に作品を発表したが、IOCや五輪をテーマにした本の存在は聞かない。大相撲で大鵬と柏戸の千秋楽全勝対決を柏戸が制した一番を「八百長」と書いて大波紋を呼んだ石原氏。IOCの闇に迫るフィクションなら、話題を呼ぶことは間違いなかった。長男・伸晃氏は「これから3冊出版されます」と話していたが…。