【赤坂英一 赤ペン!!】巨人は今年のキャンプ前、「ファーム総監督」を新設した。この史上初の役職に就任したのは、長く主力選手として活躍し、引退後は一軍ヘッドコーチ、二・三軍監督を歴任した川相昌弘氏だ。

 なぜ二・三軍監督の上(もしくはバック)に、ファーム総監督が必要になったのか。実は巨人では今年、育成・支配下の選手数が球団史上最多の合計101人に上る。31人が出場選手登録されるので、残り70人が常時二・三軍に置かれるのだ。

 球団関係者によると、「これだけ多数の選手を指導、管理するには二・三軍の現場首脳陣だけでは困難」と巨人は判断。「より巨視的、全体的にファームを運営する指導者が必要」という結論に達した。その中心的役割を担うファーム総監督として、川相氏に白羽の矢が立ったわけである。

 川相総監督をサポートするのが、元投手で三軍や監督付マネジャーをしていた高木康成編成本部長補佐、元育成捕手から球団職員に転身した芳川庸ファームディレクターだ。2人とも球団スタッフとして真面目で優秀だと評価は高い。

 二軍に二岡監督、三軍に駒田監督がいるので、現場から要望されなければ、川相総監督が選手を直接指導することはないという。ただ、キャンプ前に現場首脳陣にはこういう要望を伝えている。

「新人の動きを見て、形や格好がよくないからといきなり変えようとするのは控えてほしい。技術的な指導は実戦の動きを見てからにしましょう。実戦で結果が出なかったケース、本人から質問が出たケースなどで助言をするのはOKですから」

 キャンプでは新人が元から持っている素質を見極めることが肝心というわけだ。そして二軍キャンプ初日、川相総監督はグラウンドで選手たちにこう呼びかけている。

「いまはコロナ禍だから何よりも体調管理が第一です。キャンプは1年の土台作りの期間。自分の課題が見つかったらその日のうちにクリアし、次の日に繰り越さないようにやっていきましょう」

 その半面、スカウティングリポートを熟読し、無名の若手たちの特長も把握。血液型から出身地までノートに取り、親子ほども年齢差のある選手とコミュニケーションを取ることに努めている。

「選手はみんないいものを持っているから、プロに入ってきた。やるべきことをきちんとやれば、必ず伸びてくるはず」

 そうした川相総監督の信念の下、ファーム改革の地道な作業は深く静かに着々と進んでいる。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。日本文藝家協会会員。最近、Yahoo!ニュース公式コメンテーターに就任。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」(講談社)など著作が電子書籍で発売中。「失われた甲子園」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他に「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。