「あれ、稲葉さんじゃないの? でも、なぜ観客席にいるの?」

 沖縄・金武町で行われている楽天キャンプ地でファンや報道陣からこんな声が飛び交ったのは4日午後のこと。日本ハムの稲葉篤紀GM(49)が予告なしに姿を現したからだ。

 同日の楽天は午前中にサインプレーの確認などを行うため、非公開にしていた。午後から通常通り公開となったが、その開始に合わせるように絶妙なタイミングだった。

 日本ハムは今キャンプ初の休日で、多忙な稲葉GMは時間を有効活用しようとライバル球団の視察に訪れたとみられる。自軍のキャンプ地・名護からは車でおよそ30分。「目と鼻の先」にリーグV候補がいるのだから、新生日本ハムを統括するGMが視察に訪れることに不自然な点はない。

 気になったのは稲葉GMがたたずんでいた「場所」だ。通常、他球団のスコアラーや評論家はバックネット裏の関係者席に陣取るのが一般的。しかし、稲葉GMはブルペン経由で午後1時前にメイン球場へ到着するや、ファンに開放された三塁側芝生席後方の通路へ。1時間ほど立ったままフリー打撃や走塁練習などを見守った。

 午後2時過ぎ、楽天期待の大型新人捕手・安田悠馬(21=愛知大)がフリー打撃を始めるころになって、ようやく稲葉GMはバックネット裏の関係者席に移動。他球団の関係者らと合流したが、そこから視察したのは練習終了間際の30分程度だった。

 稲葉GMは周囲への気遣いが人一倍あることで有名。敵地球場のバックネット裏に元日本代表監督でライバル球団のGMが座れば、自然と注目も集まるため、混乱を避ける意味で目立つ場所での視察を避けたのかもしれない。ただ、ある球団OBは本人の胸中を察するように、今回の視察についてこう話す。

「日本ハムは新庄監督の話題で事欠かないが、戦力面で楽天とは投打とも大きな差がある。だから少しでも自分の目で、ライバルの主力選手や新戦力の仕上がり具合を確認しておきたかったのでしょう。それに楽天には昨季の盗塁王で自軍の主力だった西川がノンテンダーの末に移籍しましたから。球団主導だったとはいえ、稲葉GMも西川の近況は気が気でないはず。そんな要因もあって隠密行動気味になったんじゃないですか」

 全体練習後は足早に球場を後にした稲葉GMだが、単なる視察のはずがさまざまな臆測を呼んだ。やはり日本ハムはいろんな意味で目を離せないチームなのかもしれない。