ミュージカル「雨に唄えば」来日公演が東京・渋谷の東急シアターオーブで上演されている。映画「雨に唄えば」をもとにしたミュージカルで、今回は世界的なダンサーでもあるアダム・クーパーの「特別来日 日本公演」となる。

当初は2020年に上演予定だったが、コロナ禍で中止となり、今年1月から2月にかけて上演することになっていた。しかし、オミクロン株の出現で陽性者が急増したため、1月公演は中止し、2月のみの公演となった。それでも、初日は、待ち望んだファンの熱気が劇場にあふれていた。コロナ禍で20年、21年に予定された海外からの来日公演はことごとく中止となった。この状況ではニューヨーク・ブロードウェー、ロンドン・ウエストエンドまで見に行くことも難しい。そんな中、「雨に唄えば」のキャスト・スタッフはさまざまな困難を乗り越えて、日本まで来てくれた。関係者によると、英国でも隔離、来日後の日本でも隔離を経験し、日本での移動もバブル形式を組んだという。公演中も、以前のような東京の夜を楽しむこともできず、ホテルと劇場との往復で、身体のコンディションを維持することにも大変な努力をしているという。

そんな彼らの舞台は最高だった。弾むように歌い踊るタップダンスの「グッド・モーニング」では観客の拍手が鳴りやまなかった。14トンもの雨が舞台上に降り注ぐ中でアダムが「SINGIN‘ IN THE RAIN」を軽やかに歌いながら、足でキックして跳ね上げた水が美しい曲線を描いて客席に向かっていく。それを待ち構える前列の観客たちは黄色の特製ポンチョを着込んで、喜々として水を浴びている。これでこそ「雨に唄えば」という、心躍るシーンだった。

来日公演実現に奔走した制作関係者は「本当に大変だった。厚生労働省、経済産業省などとの交渉では何度も心が折れそうになった」と振り返る。初日を終えたアダムも「日本のお客様の前に立てて、本当にうれしく泣きたいくらいに感動しています」とコメントした。今、公演関係者に陽性者が出たために、中止や延期となる公演が増えている。「雨に唄えば」の東京公演は13日までで、その後大阪公演がある。無事に完走することを願っている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)