全てが凝縮された4分間だった。北京五輪フィギュアスケート男子フリー(10日、首都体育館)で羽生結弦(27=ANA)がクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦。着氷はできなかったが、その後の演技でショートプログラム(SP)8位から4位にまで順位を押し上げた。この演技を五輪2大会出場でプロフィギュアスケーターの鈴木明子氏(36)はどう見るのか。振付師としても活躍する〝表現のプロ〟が独自の視点で分析した。

 最後まで〝羽生結弦〟を演じ切った。かねて強い思いを口にしてきたクワッドアクセルは惜しくも転倒。夢を実現することはできなかったものの、国際スケート連盟(ISU)公認大会で、初めて「4A」(4回転半ジャンプ)が認定された。

 鈴木氏は「今日の本番の4回転半は私が見てきた中では一番よかったと思いました。そのジャンプを本番に持ってくることができたというのは本人も手応えを感じたのではないでしょうか。続く4回転サルコーも失敗してしまいましたが、その後は本当に完璧に滑り切ったので、その辺りがやはり強いと思います」と分析した。

 前々回のソチ五輪では羽生とともに大舞台を踏んだ鈴木氏。約8年の月日が流れても、羽生はブレない信念を抱いているという。「羽生結弦という存在に対して、一番可能性を懸けているのが羽生選手本人だというのは、ずっと変わらないです。五輪2連覇を成し遂げてもなお、そこからさらに高みを追い求め続けられるモチベーションは普通ではなかなか考えられません。まだ自分が見ていない景色があると思うからこそだと思います」

 周囲の期待を背負い、数々の歴史を刻んできた。想像を絶する重圧の中でも歩みを止めなかったのは、誰よりも自分を信じて努力を重ねてきたからだ。

 努力の成果はジャンプだけでなく、表現力にもあふれている。鈴木氏は「羽生選手は普段から『音ハメ』(曲の音に動きを合わせること)でもジャンプに入る前のステップやジャンプを跳ぶ音、着氷の音、スピン中の音のとり方など、そういったところを細かくやっています」と証言。とことんこだわりを持つからこそ「『天と地と』は日本の繊細な美しさの動きの中に芯の強さを感じます。なので、転倒があったとしても、そこで終わるわけじゃないというところも含めて、羽生選手の人生のようなプログラムをフリーで演じていたと思います」と指摘した。

 前人未到の領域に足を踏み入れ、自分自身と戦い続けた4年間。記録よりも記憶に残る演技で、大舞台への挑戦を締めくくった。