どこまで強くなるのか――。将棋の藤井聡太四冠(19=竜王、王位、叡王、棋聖)が、11、12日に東京・立川市の「SORANO HOTEL」で指された第71期王将戦七番勝負第4局で、渡辺明王将(37=名人、棋王)を114手で破り、4連勝で王将を奪取した。この勢いなら将棋界のタイトル八冠独占も夢ではない。最短なら来年春にも実現可能だが、藤井5冠の師匠・杉本昌隆八段の兄弟子である小林健二九段(64)は「八冠も通過点にすぎない」と断言した。

 タイトル通算獲得数29回と歴代4位である渡辺王将を破り、史上最年少の19歳6か月で新王将となった藤井五冠は「過去に5冠になられた方は時代を築いた偉大な棋士の方ばかりで、とても光栄に思います」と喜びつつも、「まだまだ立場に見合った実力が足りないと思うので、今後さらに実力をつける必要がある」と謙虚に語った。

 小林九段は「渡辺君もよく研究していましたが、聡太君の成長がさらに上を行っているということ。棋士は20歳のころが最も成長しますが、彼はまだ19歳。あと2段階は強くなりますよ」と指摘した。

 昨年6~7月の棋聖戦で渡辺二冠の挑戦を受け、3連勝で防衛した藤井五冠は、今回の王将戦も負けなしの4連勝で奪取。誰も手を付けられない強さは〝藤井時代〟の到来を印象付けている。もはや「敵なし」と言える勢いだが、この強さはしばらく続くと小林九段は言う。

「今から30年後、聡太君が48歳とかになったときに、中学生にボロ負けすることはあるかもしれません。でも同世代の棋士、優れた棋士はいますが厳しいでしょうね。別格中の別格です」

 今後は5冠からさらにタイトル数を増やすとみられているが、全冠制覇となるタイトル八冠独占も夢ではないという。残すのは名人、棋王、王座の3つだ。この中で藤井五冠が最も早く挑戦できるのは、例年9~10月に開催される王座戦。続いて例年2~3月に行われる来期の棋王戦。さらに例年4~6月に行われる名人戦には、早ければ来年挑戦できる。

 名人のタイトルに向けても、藤井五冠は順調な歩みを続けている。現在所属する順位戦B級1組では首位をキープしており、来期のA級昇級が濃厚だ。そして来期、A級を勝ち抜けば晴れて名人戦挑戦者となるが、小林九段は「挑戦者になれば名人になるでしょう。八冠は時間の問題」と断言した。

 全冠制覇となれば、1996年2月に羽生善治九段が、当時の全タイトルだった七冠独占を達成以来の快挙。とは言え残る3つのタイトルを奪取したうえ、保持する5つもすべて防衛しなければならないだけに至難の業と思えるが、小林九段は「八冠は通過点」と言うから驚くしかない。その理由は藤井五冠が目指す世界はタイトル独占ではなく、違うところにあるためだ。

「彼は『将棋をいかに極められるか』ということを考えていて、結果がついてきているだけ。四冠になろうが五冠になろうが気にしていないでしょう。八冠になっても通過点にすぎないと思う。将棋をいかに神の領域まで近づけるか。人間では無理だろうといわれる未知なる領域に挑戦する。フィギュアスケートの羽生結弦さんが『4回転半を飛びたい』とか、体操の内村航平さんが挑戦し続けてきたのと同じではないでしょうか」(同)

 そのためには藤井五冠が、この先も将棋に打ち込める環境にいられることを願っている。

「将棋のことは何も言うことはない。ですので前から言ってますが、いい奥さんを選んでほしい。家庭環境で崩れる棋士もいますから。聡太君のお母さんがしっかりした人なので大丈夫だとは思ってますけどね」

 藤井五冠は今後、どんな未知の領域を見せてくれるのか楽しみだ。