己の演技を貫いた。北京五輪フィギュアスケート女子フリー(17日、首都体育館)で、坂本花織(21=シスメックス)は自己ベストの153・29点をマーク。合計233・13点で銅メダルに輝き、日本女子勢では2010年バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央氏以来の快挙となった。ロシア・オリンピック委員会(ROC)勢のメダル独占が有力視されていた中で、牙城を崩した会心の演技に五輪2大会出場でプロフィギュアスケーターの鈴木明子氏(36)も大絶賛だ。

 笑顔が自然と涙に変わった。全てを出し切った坂本は、中野園子コーチと抱き合い、喜んだ。現地で雄姿を見守った鈴木氏は「やってきたことを出し切れたのが坂本選手の強さです。特にメダルがかかったプレッシャーの中でも自分がやってきたこと、できることをやり切るのみという信念を貫き通したからこそ、この演技につながったと思います」と声を弾ませた。

 初出場で6位に入った平昌五輪から4年。女子フィギュア界は新たな時代に突入した。ロシアの10代選手たちが4回転ジャンプを跳び、トリプルアクセル(3回転半)も珍しくなくなった。大会前には一部から「高難度のジャンプを決めないと勝てない」との声もあった。実際、坂本もオフ期間にトリプルアクセルや4回転の練習に取り組んだが、思うようにはいかなかった。悩み抜いた中で“総合力”に磨きをかけると決断。「プログラムの一つひとつを丁寧にやることと、エレメンツの完璧さが求められる」と完成度を高めてきた。

 ROC勢に食らいつくには、ノーミスの演技が最低条件だった。鈴木氏は「坂本選手はパーフェクトにやらないといけないというプレッシャーをかけ続けて今季はやってきました。自分が今できる最高のものをこの五輪で出せたというのは、覚悟を決めてやってきたブレない強さがあったからだと思います」と目を細めた。
 ジャンプ至上主義の傾向が増す中、大技がなくても総合的な完成度で世界と戦えることを証明。「ただジャンプを跳ぶだけではなく、ジャンプを含めたすべての技のクオリティー、滑り、そして表現する力の全てで評価された結果です。総合的な評価であるのがフィギュアスケートだと示してくれたのが坂本選手のメダルだなと思います」と褒めたたえた。

 今後はメダリストとしてより注目を集める立場となる。「フリーでは演技構成点のスケーティングスキルという項目が坂本選手は全体でトップでした。それだけ坂本選手の滑りそのものが評価された証しです。その滑りと明るい笑顔で日本女子フィギュア界を引っ張ってほしいです」とエールを送った。

 坂本の次なる戦いは3月の世界選手権(フランス・モンペリエ)だ。「目標としていたノーミスでやり切るというのはできたけど、疲れもあって、少し精度が落ちてしまった。世界選手権では、もっともっと迫力を出したい。毎回ですけど、勢いよく自分らしく、今後も滑れたら」。“かおちゃんスマイル”を武器に、五輪メダリストとして新たな世界へ足を踏み入れる。