【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】「スライダーの神様」。西武や中日、レッドソックスなどで日米通算170勝を挙げ、昨季で現役引退。現在はスポーツキャスターとして活躍する松坂大輔氏(41)の意欲的なキャンプ視察の姿勢に、そんなフレーズがふと浮かんだ。

 松坂氏は1日に宮崎からキャンプ取材をスタートさせるとソフトバンク、西武、広島のキャンプを訪問。その際には昨季の最多勝右腕の広島・九里から「スライダーの握りを教えてください」と早速、直談判された。

 現役時代には自チームの後輩たちに助言を行ってきたはずだ。だが、いきなり他チームへとなれば未経験なはず。松坂氏は自身の技術や経験の需要の高さを実感したはずだ。

 さらに3日、巨人の宮崎キャンプを訪問した際には原監督から、エース候補の戸郷にスライダー伝授を依頼された。戸惑いながらも即席〝臨時コーチ〟となりコツを伝授。こうなれば自身の需要を確信したに違いない。

 松坂氏自身、若かりし日に「フォークの神様」との出会いに恵まれている。西武入団直後、中日OBで評論家の杉下茂氏からフォークの握りを教わった。その後も交流は続き、松坂氏が中日に移籍した際には直々に激励を受けた。

 その杉下氏は現在96歳。215勝右腕としての存在感に変わりはないが、時代は確実に移り変わるというもの。41歳、松坂氏を新しい時代のレジェンド「スライダーの神様」と呼んだとしても違和感はないだろう。

 松坂氏の全盛期、2005年(14勝、防御率2・30)に交流戦で対戦した阪神・関本健太郎(現在は賢太郎)氏は当時、こんなコメントを残している。

「打席に立ってて、自分の少し前(頭の高さくらいで投手寄り)の空中に透明のアクリル板が浮いているとしましょう。そこに140キロくらいの直球が一直線に向かってきて『カンッ』と当たって『ガクン』と外角低めに跳ね返って曲がる。そんなスライダーなんですよ。普通、打てへんよ」

 それほどのスライダーだった。年月が経過すればさらに伝説と化し「スライダーの神様」具合は増していくことだろう。

 松坂氏は6日に沖縄入りし、中日の北谷キャンプでデビュー戦で三振を奪った片岡二軍監督と談笑。その後は阪神で同級生の藤川球児スペシャルアドバイザー、楽天では田中将大、日本ハムでは新庄ビッグボスらと精力的に交流を深めた。

 ある時はキャスター、またある時は野球の伝道師として各地で関係者から歓迎を受けた。

「引退したばかりで、みんなが気を使ってくれているだけですよ」。そう謙遜しながらも、素直に笑顔を見せた松坂氏。取材や交友録の模様をSNSでアップするのも板についてきた。発信力のある次世代レジェンドに、野球界の新たな可能性を垣間見た気がした。

☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。