5年前の「オリエント急行殺人事件」に続き、ケネス・ブラナー監督、主演による名探偵ポアロである。

今回は旅情たっぷりの「ナイル殺人事件」(25日公開)。英ITV制作のテレビシリーズでデヴィッド・スーシェが演じたポアロを標準とするなら、ブラナー版はかなりアクティブで二枚目にシフトしている。

冒頭に登場する第1次大戦中のポアロの悲恋エピソードがアクセントとなり、登場人物の愛憎関係の輪郭が浮かび上がる。やがては謎解きのヒントにつながっていく。ブラナー監督はメリハリを効かせ、胸高鳴る雰囲気でナイルの旅にいざなってくれる。

資産家の美女リネット(ガル・ガドット)は親友ジャクリーン(エマ・マッキー)から婚約者サイモン(アーミー・ハマー)を奪い、エジプトにハネムーンに。招待客とともに豪華客船でナイル川をさかのぼるが、行く先々に当て付けのようにジャクリーンが姿を見せる。リネットは行きがかりで船に乗り込むことになったポアロに相談するが、恵まれ過ぎた彼女は招待客全員に何らかの恨みを買っていた。やがて、最初の殺人事件が起きて…。

3層構造の豪華客船は客室の出入り口がすべて外甲板の方に開く作りで、文字通り鳥目線のように自在なカメラが周回しながら映し出す。犯行現場への動線が観客にも見えやすく、ポアロの頭の中で進行する立体的な謎解きとリンクする。

ブラナーのポアロは想像以上に激情家で、怒りや落胆を隠さない。その振幅の大きさが、手だれの名探偵にとっても、人生を左右する重い事件だったことを印象づける。

ガドットは「ワンダーウーマン」のイメージを払拭(ふっしょく)して極め付きにエレガントだ。他のキャストでは、いい感じに年を重ねたアネット・ベニングやブルース歌手を個性的に演じたソフィー・オコネドーが記憶に残った。

アガサ・クリスティの「ナイルに死す」を読んだのは何十年も前だし、ピーター・ユスチノフがポアロを演じた78年版の記憶も薄れていたので、新鮮な気持ちで楽しめた。謎解き、旅気分を存分に楽しめる快作だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)