NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は京都編に入り、3人目のヒロインひなた(川栄李奈)は映画村で働いている。

この条映太秦映画村は東映京都撮影所に併設された太秦映画村がモデルで、ひなたをそこに誘ったベテラン斬られ役、虚無蔵(松重豊)には、「5万回斬られた男」と言われた名脇役、福本清三さん(21年に77歳で死去)の在りし日の姿が投影されている。

舞台となっている80年代の前半は、駆け出し記者としてこの撮影所に何度も通った頃に重なるので、懐かしい思いでドラマを見ている。

ひなたの自宅である「回転焼き店」のラジオから、薬師丸ひろ子が歌う「セーラー服と機関銃」の主題歌が流れたことが当時の記憶をたどるきっかけになった。この映画の公開は82年。時代劇の退潮はとっくに始まっていたが、「セーラー服-」で知られる角川春樹氏のプロデュースでこの年には「伊賀忍法帖」、翌年には「里見八犬伝」と京都撮影所では時代劇大作が続いていた。ドラマに登場するテレビ時代劇はまだまだ量産されていたし、「里見-」の深作欣二監督のように斬られ役1人1人の動きを大切にする監督もいたので、福本さんたちの活躍の場は少なくなかった。

福本さんを始め、京都撮影所のスタッフ、キャストは「時代劇のプロ」ぞろいだったので、東京から来た角川映画のキャストはなかなかの洗礼を受けることになり、体調を崩す人もいた。そのプロたちから一目置かれたのが「広クン」と呼ばれてかわいがられた真田広之だった。

当時20代前半。後にハリウッド映画「ラストサムライ」(03年)に日本の殺陣のキレを浸透させた立役者は、当時から動きに隙が無かった。師匠の千葉真一さんとの比較で、スタッフが「千葉さんも及ばないね」とつぶやくのを聞いたことがある。が、そんな「広クン」も福本さんとの絡みでは、いつになく緊張の面持ちだった。「虚無蔵さん」は、それほどの存在だったのだ。

時を少しだけさかのぼれば、撮影所の「大部屋」からは「ピラニア軍団」と呼ばれた人気の悪役集団も生まれている。

「カムカム-」の端々からもそんな独特の雰囲気が伝わってくるが、当時は京都撮影所に取材に行くたびに、そこにはワクワクさせられる「発見」があった。【相原斎】