【取材の裏側 現場ノート】ついつい観客気分になってしまった。2月11日の北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝。平野歩夢(23=TOKIOインカラミ)が3回目に96・00点をたたき出して金メダルを決めたシーンは、記者だけでなく多くの人の記憶に刻まれたに違いない。

 暫定2位から2回目以上に精度の高い大技トリプルコーク1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)で逆転。昨年12月の公式戦、今年1月のXゲームで成功しているとはいえ、〝ラストチャンス〟で最高点をマークするのは容易ではない。本人の努力が実を結んだ瞬間、興奮して鳥肌が立った。

 ただ、印象的だったのは意外にも雪上を滑っている姿ではなく、翌日の一夜明け会見だったかもしれない。普段は海外の試合に行くことができないが、今回は平野の言葉をじっくり聞ける貴重な機会。そうした中、報道陣から「世界の頂点に立つためには?」という質問を受けると、次のように語っていた。

「何が確実なのかは言いきれないんですけど、やっぱり周りを驚かせるような圧倒的な滑りは当然必要だと思いますし、それ以外にメンタル的な部分が大会では求められる強さだ思う。それをすべてバランスよく整えることはなかなかできないので、そのためには孤独にならないといけないこともあれば、やりたくないこともやらないといけなかったり…。自分の場合はそういうものがあって今回の結果だったので、これをすべて人にお勧めはできないですけど、圧倒的な滑りと気持ちの強さ、普段の生活が上回っている人が勝つと信じたい」

 逃げたくなるようなことにも向き合い、人間力を磨いていく。平野の人柄が垣間見えるコメントであり、記者も見習わなければ…と痛感した。

 スノボは多くの選手がカッコよさを追求する。そのため見た目が先行してしまい、過去には〝腰パン姿〟でバッシングを受けた選手もいた。それでも、日本代表関係者は「スノーボードの評価は間違いなく、いい意味で上がってきていると思います」と話す。

 限界に挑みつつ、自身の美学を貫く平野の姿勢も競技のイメージを変える力があるように感じた。

(五輪担当・小松 勝)