「人生は愛と友情と裏切り」――。作家の西村京太郎(本名・矢島喜八郎)さんが3日、肝臓がんで神奈川・湯河原の病院で亡くなった。91歳。トラベルミステリーの第一人者で、著作の累計は2億部を超える人気作家だった。

 西村さんは1963年「歪んだ朝」でオール読物推理小説新人賞を受賞し、65年には「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞。ブレークしたのは鉄道や時刻表の殺人事件のトリックにしたトラベルミステリーで、警視庁捜査一課の十津川省三警部と亀井定雄刑事が事件を解決していく「十津川警部」シリーズは79年から民放各局でテレビドラマ化され、現在まで続く人気となっている。

 また、西村さんといえば「ミステリーの女王」と呼ばれた作家の山村美紗さんとの関係も取りざたされた。86年から2人は京都で隣り合う邸宅に住んでいた。当時、西村さんは独身だったが、山村さんは家族がある身で、〝同居生活〟は長らく文壇タブーとされた。

 ところが、96年に山村さんがホテルで心不全で急死。西村さんは脳梗塞で湯河原に療養中で、そのまま居を構え、現在の妻となる女性と結婚し、京都に戻ることはなかった。

 西村さんは山村さんの死後、数年たってから、各メディアのインタビューで山村さんに恋心を抱いていたことを明かしている。〝戦友〟関係で、支え合ったことで、人気作家の地位を不動のものにしたともいえる。

 西村さんは昨年末に入院するまで執筆を続け、現役を貫いた。色紙にサインする際、「愛と友情と裏切りとこれが人生だ」「人生は愛と友情と裏切りで成り立っている」と揮毫していた。絶頂期の年収は7億円を超え、人の良い西村さんはカネをだまし取られることも多く、ミステリー作家ならではの「裏切り」の文字も込めたといわれる。

 山村さんの長女で、十津川警部シリーズにも多く出演している女優の山村紅葉は西村さんの死去に追悼コメントを寄せ、「毎月のようにお宅に伺っていましたが、新メニューのお料理が出て来ると『山村(美紗)さんは、こういうのすぐトリックにしちゃうんだよね』などいつも母の想い出話をしてくださいました」と振り返った。