“脚色”や“盛り”を排除した実話怪談ブームの中、現在発売中の実話怪談集「真・実話奇譚集 私、一回、死んだのかもしれません」が話題だ。同書は、お笑いコンビ「エレキコミック」(やついいちろう、今立進)と片桐仁によるコントユニット「エレ片」がパーソナリティーを務めるラジオ番組「エレ片のケツビ!」(TBSラジオ)に、リスナーから寄せられた恐怖体験、不思議体験の数々を富岡蒼介氏が当人に再取材して書き下ろしたもの。富岡氏が「取材したんですけど、締め切りの日程が合わずに惜しくも収録できなかった」という実話怪談を特別に公開する――。

 これは20代男性の救急隊員からうかがった話。ある日、女性から119番通報があり、「雑木林に人が倒れている。怖くて近づけないので救急車に来てほしい。私は車の中で待っている」とのこと。通報を受けて3人で救急車に乗り込み現場に急行した。

 到着すると、雑木林の入り口に車が止めてある。中をのぞいてみたものの、誰もいないので3人で周囲を探すも女性の姿はない。

「○○さーん! いらっしゃいませんかー!」と、通報した女性の名前を呼びながら周辺を探してみるが、返事はない。そこで救急隊員は、女性が通報してきた携帯電話の番号にかけ直すことにした。隊員が耳に当てたスマホの向こうで鳴るコール音。そのコール音に呼応するように、どこからか呼び出し音が聞こえてくる。

 その音が鳴っている場所を探して歩き回る。近くから鳴っているが、地面には何もない。ふと見上げると、首にロープを掛けて、木の枝にぶら下がっている男性の姿が見えた。スマホの呼び出し音は、その男性が着ているコートのポケットから聞こえているように思える。

 あわてた3人は、男性を木から降ろすことにした。その際、ロープの結び目を解いてしまっては警察の捜査に支障が出るため、解かずに降ろしたことを覚えているという。

 男性はすでに亡くなっていた。不審死扱いになるため、すぐに警察へ連絡し、現場に来てもらうことにした。訪れた警察官は「まずは家族と連絡を取ってみます」という。ここから先は警察の仕事。引き継いで3人は救急車で戻った。

 数日後、警察から問い合わせが来た。

「亡くなっていた男性の家族に連絡をしても電話に出ないので、自宅に行ったところ、室内で女性が亡くなっていた。検死の結果、死後1週間ほど経過している」とのことだった。

「結局、事件性はなかったようなのですが、電話をかけてきた女性は誰だったのか? なぜかけてきたスマホが男性のコートの中にあったのか? 亡くなっていた女性は男性の奥さんらしいのですが、なぜ亡くなっていたのか。何が起こったのかよく分からないんですよね」

 救急隊員はそう聞かせてくれた。