体操界のパイオニアが新たな挑戦だ。今年1月に引退を表明したロンドン&リオ五輪金メダルの内村航平(33=ジョイカル)が11日、自身の引退試合「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」(12日、東京体育館)に向けた会見を行った。

 五輪2連覇をはじめ数々の金字塔を打ち立てたキング。体操界への感謝の気持ちを込めて「美しさ、着地を止めるところを見せたい」と意気込みを語り、12日にはオールラウンダーとして6種目の演技で集大成を飾る。

 この日の会見では先駆者らしい新たな試みも明かした。引退後は「KOHEI UCHIMURA PROJECT」を立ち上げ、体操の普及を目的として様々な活動の場を模索。その第1弾が近年、注目を集めている「NFT」(非代替性トークン)への進出だ。

 NFTとはデジタルデータに唯一無二の資産価値を付与する技術で、音楽やアートなどに活用されている。今回、内村はイラスト世界大会で優勝した経験を持つアーティスト・田村大氏とコラボを結成。両者は打ち合わせを重ね、長年こだわり続けてきた「着地シーン」を一枚の絵として価値をつけ、販売することとなった。

 渾身のイラストを描き上げた田村氏は「体操人生を通じてミリ単位までこだわった着地のシーン。競技を見た方の心が沸き立つような躍動感あるシーンをNFT作品にしました。多くのファンの方々が今までの活躍、道のりを思い出して、感動を覚えていただけたら」と話した。

 一方、内村は「自分も皆さんも印象に残っているのは鉄棒の着地を止めているところなんじゃないか。止めて勝ってきたので、そこが一番しっくりくると思って、お願いして形にしていただきました」と笑った。絵を手渡されると「何年のどの場面か、一瞬で分かりました。2014年の世界選手権ですよね?」と自信満々。隣の田村氏も驚く〝ビンゴ〟だった。改めて絵を見入ったキングは「こうして自分がこだわってやってきたことを絵にしていただいて、ホントに感謝しかないです」としみじみと語った。

 2017年3月には体操界初の「プロ選手」として新たな道を切り開いた。この日、かつてライバルとしてしのぎを削ってきた山室光史(コナミスポーツ)は「これから先も内村航平というブランドを皆さんに発信してもらいたい」と話したが、今回の〝NFT進出〟はその第一歩。これまで前人未到の記録を築き上げてきたように、今後もレジェンドは我々の想像を超えた挑戦を続ける。