前例のない試みは大成功だ。体操界のキング・内村航平(33=ジョイカル)が12日、自身の引退イベント「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」(東京体育館)に出場し、30年の現役生活に終止符を打った。

 今大会は採点や順位が一切なく、会場全体がショーアップ。選手入場時には派手な照明と音楽で会場を盛り上げ、観客席と器具が至近距離に配置された。つり輪と跳馬では、会場の照明が落とされて真っ暗になり、器具と演技者にだけスポットライトが当てられた。大会終了時には金色のテープや紙ヒコーキが舞う演出も施された。

 国内の体操イベントでは初となるエンターテインメント化に、観客はもちろん出場選手からも大好評。田中佑典(コナミスポーツ)は「ショーアップされた中で演技できて楽しかった」、山室光史(同)は「海外の世界選手権を思い出しました。驚いた部分が大きかった」と絶賛。亀山耕平(徳洲会)に至っては「競技スポーツは見てもらって価値があるとずっと昔から言っていますが、まさにこういうこと。競技は見ている人がいて初めて成り立つので、増えていったらうれしい」と興奮気味だった。

 演出の打ち合わせに参加した内村も「全体的にホント、素晴らしすぎました。僕の演技以外は(笑い)」と大満足。さらに「これがキッカケになり、新しい体操の魅力をお客さんが知って、体操のリピーターになってくれたら」と今後の展開に期待した。

 その一方で課題も冷静に見詰めている。ライトアップに関しては「選手にケガだけはさせたくない」と改良を視野にいれ、さらに資金面での青写真も描く。

「毎回は難しいと思うので、大きな企業に目をつけてもらうのが一番、近道かなって思いますね。あまりお金の話はしたくないですけど、やっぱりこれだけのことをやるにはお金を出してもらわないと始まらない。大きな企業の方たちが『体操っていいよね』『体操にはこれだけお金を出しても大丈夫』って言ってもらえるくらい、僕たちが魅力を伝えていかなければいけない。小さい輪がだんだん大きくなっていってくれれば」

 プロデューサーとしての手腕も存分に発揮した内村。引退後も「体操というジャンル全てに関わる」と本気モードだ。今大会で見つかった課題を踏まえ「アイデアも何個かあるので、そこを落とし込んでアップデートしていけたら」と希望に胸を膨らませている。