2011年、暴力団関係者との交際を理由に芸能界を突然引退した島田紳助さんの会見に同席していた、当時よしもとクリエイティブ・エージェンシー(現・吉本興行株式会社)の社長を務めていた水谷暢宏氏が驚きの転身を遂げていた。吉本を退職した水谷氏は現在、オフィスPLAYワーク代表として、コロンビア人家族が和歌山・印南町で旗揚げしたサーカス「さくらサーカス」の応援に携わっている。“笑いの総合商社”を知り尽くした水谷氏が、サーカスの魅力を明かした。

 1987年に吉本に入社した水谷氏は、イベントや新喜劇の興行、グッズ販売事業、不動産など総務や管理を中心に活躍した。制作センター長就任後は「M―1グランプリ」の窓口役となったり、よしもとのスタッフ養成所・よしもとクリエイティブカレッジ(YCC)の立ち上げにも携わった。2010年、よしもとクリエイティブ・エージェンシーの社長に就任。12年に吉本興業株式会社(現・吉本興業ホールディングス株式会社)取締役となり、19年7月に退任するまで大﨑洋会長の片腕として会社を支えた。

 吉本時代について「紳助さんの会見に立ち会った時もそうですが、『メッセンジャー』の黒田有君が(傷害で)逮捕された時も印象に残ってますね。いろんな芸人さんがいてますから、コンプライアンスの仕事をしている時は『小さなことでも教えてね』とアンテナを張ってました。闇営業騒動は退任直後だったので、岡本(昭彦社長)さんが映っているのを家でテレビで見ながら『辞めてなかったら、僕がいたのかな』なんて思ってました。いろんな仕事をさせてもらいましたね」と振り返った。

 吉本を知り尽くした水谷氏は今、サーカスの応援をしている。

「20年に和歌山の印南町を拠点に旗揚げした『さくらサーカス』です。立ち上げから『相談役』という形で、プロデュースなどをお手伝いさせてもらっています」

 吉本在籍時、新喜劇やイベントに外国人パフォーマーを呼ぶ際に海外エージェントとの窓口を務め、海外の大会を見に行ったりするなどサーカスに対する見識はあったというが、水谷氏にとってさくらサーカスの魅力とは何なのか?

「最大の特徴は家族です。コロンビアのサーカス一家の4代目で団長のアラン・マルティネスさんと日本人妻の小深田尚恵さん、その子供を中心にロシア、アルゼンチン、メキシコ、コロンビア、日本のアーティストが加わった総勢30人ほどのサーカス団です」

 アランさんはギネス世界記録を持つ綱渡りアーティスト。次男・ダビッドさんと四男・嵐さんの「マルティネス・ブラザーズ」は、「イカリオス」という足技で世界最高峰のサーカスの祭典「第44回モンテカルロ国際サーカスフェスティバル」で金賞を獲得した。先日、アラン夫妻の間には12番目の子供が生まれたばかりだそうで、今後どんなパフォーマーに成長するか楽しみだ。

 テントの設営から受付、売店での販売、舞台の裏方など団員とボランティアが協力して運営しており、水谷氏は「小さい家族経営ならではですが何でも自分たちでやってしまう。ボランティアの方も自分たちで劇場を建てることはなかなかないでしょうから、面白いと思います」と話した。

 さくらサーカスは、6月12日まで大阪・和泉市の池上曽根史跡公園で「さくらサーカス和泉公演」を開催中だ。

「コロナでイベントも少なく、デジタルとかゲームが主流になっているが、子供のころにシンプルに体を使ったリアルなものを見ることで、心を揺さぶられることはあると思う。アランさんも『サーカスを見たことのない人に届けたい』と言っている。興行って大都市で行われることが多いが、和泉市でこれだけ気軽に世界レベルのエンターテインメントを見れるのはなかなかない。ぜひ、本物のサーカスに触れてほしい」

 エンタメの世界を知り尽くした男が絶賛する世界の技をご覧あれ。