数多くのオリンピアンを輩出する日体大は18日、アスリートの支援を目的とした「日体大アスリートサポートシステム」(NASS)に関するシンポジウムを開催。東京五輪の柔道女子52キロ級金メダルの阿部詩(21)、同ボクシング女子フェザー級金メダルの入江聖奈(21)ら同大に在籍する現役生がディスカッションに参加した。

 シンポジウムでは独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)との連携・協力、アスリートの医科学支援の研究の在り方などが話し合われ、スポーツ界が抱える多くの問題なども議論の対象となった。

 その中で「アスリートファースト(選手第一)」という概念が改めて取り上げられた。JSCが運営するハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)の前センター長・大本洋嗣氏は「アスリートファーストという言葉が昔あった」とすでに〝死語〟として紹介。「アスリートが上にいて、それぞれの専門分野が別々に持ち上げているような考え方」と定義付けた上で「選手は1番でコーチは2番か。じゃあコーチの奥さんは3番なのか?という話になる。ファースト(第一)って考えること自体がちょっとおかしい」と問題提起した。

 それに代わる言葉が「アスリートセンタード」だ。大本氏は「今、日体大では〝アスリートセンタード思考〟と言っている。アスリートを『上』ではなく、囲んでサポートする。持ち上げるのではなく、全体で連携しながら、周りの人間も一緒に上がっていく考え方」と説明した。

 アスリートファーストは東京五輪招致のあたりから日本中に浸透。しかし、コロナ禍で五輪開催が危ぶまれると「選手最優先」の考え方に違和感を覚える人が増えた。そんな経緯をあり、日体大は「第一」から「中心」という意味の「アスリートセンタード」の新ワードを推し進めているという。

 大本氏はアスリートセンタードの概念を「領域間連係」と表現した上で「多数の専門家を有する日体大のプロジェクトだからこそ可能。必然的に研究レベルも高まり、スポーツ科学の発展にも寄与する」と強く訴え、理解を求めた。