【赤坂英一 赤ペン!!】オースティン、ソトがケガで開幕絶望となったDeNAで、一際険しい表情をしていたのが石井琢朗野手総合コーチだ。オープン戦で常にベンチの最前列に立ち、選手のプレーを見つめていた横顔は、広島時代に河田雄祐ヘッドコーチが命名した異名「野球の鬼」の復活を感じさせたほど。

 オープン戦は9勝5敗2分けと2年ぶりに勝ち越して12球団中3位。チーム打率2割7分3厘はトップ。「ひとつでも先の塁を狙う姿勢」「内容のある凡打、得点につながる凡打」を求める石井コーチの指導も、着実に浸透してはいる。

 その好例が右腹斜筋肉離れから復帰した主将・佐野が15日のヤクルト戦で見せたプレー。知野の右前打で一塁から三塁へ滑り込み、勢い余ってベースから手が離れて、タッチアウトとなった。

 しかし、この積極走塁を三浦監督は高く評価。「キャプテンがああいう走塁をやってくれることはチームに大きな意味がある」とたたえた。

 翌16日には開幕4番・牧、途中出場の神里が「得点につながる凡打」を打った。7回無死一、二塁から牧の中飛で二走の知野が三進し、続く神里の遊ゴロで1点を追加している。牧、神里がベンチに戻ってくると、石井コーチは彼らをグータッチで迎えた。

 佐野は離脱していた間、オープン戦のテレビ中継を見て「本当にいい戦い方をしてるなあ、と思っていた」という。

「チームに戻ってきて、(実際に)いい雰囲気を感じて、頑張らなきゃいけない、と思いました。シーズンに入ってからも今のいい戦い方を続けられるように、チームの戦力になれるように」

 とはいえ、オープン戦と本番は違う。思い出されるのは石井コーチの広島時代の2015年。新井、黒田の復帰1年目で盛り上がったが、開幕早々連敗して悪循環に陥り、4位に終わった。

 当時広島低迷のきっかけをつくったのが、くしくも横浜で3タテを食わせたDeNA。このとき、広島ベンチからは何かを蹴飛ばす音とともに、「くそお!」という石井コーチの怒声が聞こえてきたものである。

 その石井コーチが14年ぶりにDeNAに復帰した今年、何の因縁か、開幕戦は本拠地に広島を迎える。本人は「まだまだこれから」と多くを語らないが、私などには見えない課題が山積しているらしい。その上、両外国人まで出遅れた。名伯楽とうたわれるレジェンドの試行錯誤はしばらく続きそうだ。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。日本文藝家協会会員。最近、Yahoo!ニュース公式コメンテーターに就任。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」(講談社)など著作が電子書籍で発売中。「失われた甲子園」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他に「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。