〝下馬評〟を覆した。大相撲春場所14日目(26日、大阪府立体育会館)、3度目のカド番を迎えていた大関正代(30=時津風)が踏みとどまった。

 勝てば初優勝に大きく近づく幕内高安(田子ノ浦)に、土俵際まで追い詰められたが、あきらめることなく投げを打ってV争いのトップランナーを土俵に転がし、勝ち越しを決めた。

 取組後は「ホッとした。相手の相撲になったけど(土俵際でも)何とかしようと思ったのがうまくいった。あきらめなかったのがよかった」と安どの表情を見せた。場所前に新型コロナウイルスに感染。調整遅れが顕著に表れ、初日から4連敗。現行のカド番制度ができた1969年の名古屋場所以降、4連敗スタートで陥落を免れた大関はいなかっただけに、正代は「連敗の時は、勝ち越しはイメージできなかった」と、あきらめかけていたという。

 周囲からも、そのムードは漂っていた。正代に近しい関係者は「残ってほしいけど」としつつも「実は(2020年秋場所で)初優勝して大関に上がった時、本人も戸惑いを見せていた。上がると思っていなかったようだ。だから一度、下に落ちて自分を見つめ直したり、いろんな相撲を覚えて幅を広げれば今度は上がっても安定するんじゃないか」と〝出直し〟を指摘する声まで上がっていたほどだ。

 そんな中でも正代は「(5日目の)初日が出た相撲の後、精神的に余裕が出た。勝つイメージがしやすくなった。内容、体に影響したのかな」とターニングポイントを挙げた。さらに高安に2敗目をつけたことで、この日に勝利したトップタイの関脇若隆景(荒汐)、1差の幕内琴ノ若(佐渡ヶ嶽)の三つどもえの展開を演出。千秋楽までV争いを盛り上げることに一役買って、大関としては不本意な形とはいえ、存在感を発揮した。