21日まで東京・浜松町の自由劇場で上演された舞台「新装『走れメロス』~小説 太宰治~」を見てきた。

作家太宰治の苦難に満ちた波瀾(はらん)万丈の人生を、親友で直木賞作家の檀一雄が書き上げた回想録「小説 太宰治」をベースにして描いた舞台作品。主演の太宰を内博貴(35)、ストーリーテラー的な檀を生島勇輝(37)、太宰が師事した直木賞作家の井伏鱒二を内海光司(54)が演じた。この3人が柱となって、舞台が進んだ。

20分ほどの休息をはさんだ2時間40分にも及ぶ舞台だったが、見応え十分だった。太宰役の内博貴を、生でこんなにじっくり見たのは、14年前に川崎の日テレ生田スタジオで2人っきりで向かい合って取材して以来だった。

当時、蒼井優連続初主演の「おせん」で相手役をしていた20歳の内は、未成年時の飲酒騒動から復帰したばかりだった。手土産のシャンパン「モエ」を差し出すと不思議な顔をしたので「いつか座長を務めるようになれば、みんなに酒をついで乾杯する時が来るから、それまで飲みの練習をしてよ」とか適当なことを言って渡した(笑い)。

今は立派な座長になった。美形は若い時と変わっていないが、舞台を中心にキャリアを積んできて芯が通った。エキセントリックになりすぎず、かといって深刻になりすぎずに太宰の苦悩を演じていた。アイドルなら35歳は、そろそろ限界を感じる年齢だが、舞台では若手と言っていい。さらなる飛躍を期待したい。

檀役の生島は、フリーアナウンサー生島ヒロシの長男。弟の翔と兄弟で取り上げられることが多く「生島家のお兄ちゃん」のイメージだったが、一皮むけた。元々、実直な感じだったが役者としての幹が太くなった気がする。

一昨年から昨年にかけてテレビ朝日系「仮面ライダーセイバー」で、シリーズ50年の歴史で初の子連れイクメンライダー「仮面ライダーバスター」を演じて大きく変わった。それまでは30代半ばで「役者を辞めなければいけないのでは」と悩んでいた。父の事を気にせず、今年に入ってからは友人と一緒にバーの経営に乗り出すなど殻を破った感じだ。

檀は太宰の死後に直木賞を受賞。「小説 太宰治」を書いた。「最後の無頼派」と呼ばれ、「火宅の人」を書き、女優檀ふみの父親でもある。“実直なお兄ちゃん”生島の演じる“その先の檀一雄”を見てみたいと思わせてくれた。

そして、井伏役の内海。一昨年暮れに元光GENJIメンバーとして、佐藤アツヒロと25年ぶりにローラースケートダンスを披露した「KOHJI×aTsuHiRo クリスマスイベント2020~イヴの夜からはじめよう~」ではノリノリの“キノッピー”を堪能した。

09年に三波豊和主演の舞台「名探偵ポワロ ブラックコーヒー」に出演した時に、出演者の1人として東京・銀座の博品館劇場で話を聞いた。当時のジャニーズは制作発表などでもタレント写真の使用は禁止。新聞掲載用の全体写真の撮影後に、内海1人だけ外れて“ネット用全体写真”を撮りながら、なんとも味気ない思いをしたのを覚えている。

スーパーアイドルの光GENJIから、今までのいろいろなことを思いながら、内海の井伏鱒二を堪能した。ショボくなったり、普通のオッサンと変わらなくなってしまったアイドルを何人も見てきた。内海は上品に年齢を重ねて、きれいな井伏を見せてくれた。なんか、とってもうれしくなった(笑い)。