第94回選抜高校野球大会で準優勝した近江(滋賀)がまさかの〝ひこにゃん騒動〟に巻き込まれた。野球部の多賀章仁監督、山田陽翔投手らが地元の彦根市役所に大会報告に行った際、市の人気キャラクター「ひこにゃん」と記念写真を撮ったが、これに日本高野連が過敏に反応。同市のSNSに掲載を認めない判断を下す事態となった。お祝いムードに水を差す形となった騒動の顛末は…。

 先のセンバツではコロナ感染で出場辞退した京都国際の代替出場だったにもかかわらず、エース山田の力投で準優勝し、日本中に感動を与えた近江。5日に彦根市役所を訪れて大会報告し、サプライズ登場のひこにゃんの前で夏への飛躍を誓い、記念写真に収まった。

 ところが、その後にまさかの展開。市側が写真のSNS掲載の許可を学校側に申し出たことで、学校側は即答をせずに滋賀県高野連に確認。同高野連から連絡を受けた日本高野連は、学生野球憲章に抵触する恐れがあるとの見解から掲載〝NG〟と判断し、市側はやむなく掲載を見合わせる事態となった。ご当地キャラに商業的な側面があることを心配し、慎重にならざるを得なかった。

 世間の批判が沸き起こる中、7日になって日本高野連が直接近江に事情を聞いたところ、ひこにゃん登場と記念撮影にまったく他意がないことを確認。そのうえで掲載に問題がないと前言を改め、滋賀県高野連にも連絡して〝平和決着〟となった。

 日本高野連の井本事務局次長は「PRに利用される可能性があるのかな、と思った。単純に写真を撮って終わりと言うことなので今回は抵触しない。近江さんに説明をさせてもらいました。こちらは掲載を止めません」と顛末を説明し、当初のNG判定については「最終的にOKにさせてもらったが、進め方はどうだったのか、とは思う」と確認が不十分だったとした。自治体のキャラクターは主にイベントや販売促進など、ご当地のPR活動が中心。高野連側にすれば、球児が〝商業利用〟されることに神経をとがらせたようだが、単なる祝福に過ぎず、心配は杞憂に終わった。

 ひこにゃんは過去にも彦根東が21世紀枠で出場を決めた2009年、お祝いに彦根城天守閣から学校に駆けつけたが、混乱防止を心配した学校側から校門の前で文字通りの〝門前払い〟をされたことがある。これまで甲子園のアルプス席にご当地キャラの姿が見られないのも同じ理由で、井本事務局次長は「キャラの存在自体を否定しているわけではない。アルプス入場は今回のようなPRうんぬんの理由ではなく、警備的な問題でダメということ」としている。

 近年の甲子園大会は球数制限、タイブレーク、継続試合など選手の健康面を重視し、グラウンドレベルでは時代の流れに即したルール改正を行ってきたが、学生野球憲章は簡単に見直しや改正ができない事情もある。それだけにある選抜大会関係者は「今回は学校側が即答せずに県高野連に連絡したことで市のSNSに掲載されなかった。学校側の行動がよかった。もし勝手に掲載されていたら最悪、学校側に責任が及ぶことにもなった」と胸をなで下ろした。

 とはいえ、今後もご当地キャラと球児がからむ場面は激励会、壮行会、優勝報告など各地で考えられ、SNS上で良しあしを判断するのは難しい問題。後のトラブル防止のためには〝からまないのが一番〟となってしまう現状は、寂しいような気もするが…。