「忍者ハットリくん」「怪物くん」「プロゴルファー猿」で知られる、漫画家の藤子不二雄A(ふじこ・ふじお・えー)さん(本名・安孫子素雄=あびこ・もとお)が7日、川崎市内の自宅で亡くなったことが分かった。88歳だった。

コンビを組んだ藤子・F・不二雄さん(本名・藤本弘=ふじもと・ひろし)が児童漫画、ギャグ路線を進んだのに対し、ブラックユーモアや社会、人間の心を深くえぐった作風と違う路線を歩み、作品が実写化されるなど晩年まで活躍した。

<悼む>

小まめに催事に足を運ぶ人で、90年の日刊スポーツ映画大賞にも作品賞「少年時代」(篠田正浩監督)の原作者、プロデューサーとして出席してくれた。

「自分が関わった作品だけど、1人の映画ファンとして泣けましたね」

サングラスとぼそっとした語り口がタモリを連想させるからなのか、短い言葉がスッと心に染みて、誠意がにじんでいる気がした。

97年に参加したチャリティー・ゴルフ大会では絶不調。「ゴルフの調子が悪いと人生が悲しくなる」。サラリーマンのぼやきのような言葉が記憶に残った。パーティー会場でも背広組にスッと溶け込む、人気漫画家らしからぬ人だった。

富山新聞社で似顔絵やインタビュー記事を担当していた時に、後にコンビとなる藤子・F・不二雄さんから誘われてプロの漫画家へ。天才肌でマンガ道を真っすぐ突き進んだ藤子Fさんとは対照的に、藤子Aさんは当時は安定したサラリーマン生活に未練があったという。

イベントのたびに垣間見えた「常識人」「社会人」の顔にはそんな経歴が関係しているのだろうか。

「怪物くん」「笑ゥせぇるすまん」…藤子Fさんとは趣の違うシニカルな大人の視線。もう1度読み返したくなる藤子Aさんの作品は、今も本棚に残っている。【相原斎】