8日に最終回を迎えたNHKテレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、ヒロインひなた(川栄李奈)を条映映画村に誘うなど、京都編のキーマンとなった大部屋俳優・虚無蔵は松重豊(59)の味わい深い演技もあって、いくつかの名言を心に残した。

繰り返し語られた「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」は、もはや人生訓のように焼きついている。

芽が出ないことを嘆き、ひなたとの交際に限界を感じた後輩の五十嵐(本郷奏多)が「何で耐えられるんですか? こんな屈辱(ずっと大部屋俳優でいること)に」と愚痴ると「傘張り浪人とて刀を携えておる限りは侍だ。あべこべにいくら刀を振り回しておっても、いとしいおなごを泣かす者は真の侍にあらず。おひなを泣かすな」と諭した。

終盤になっても、ラジオ英語講座の講師を依頼されて戸惑うひなたに向けて「そなたが鍛錬し培い、身につけたものはそなたのもの。一生の宝となるもの。されどその宝は、分かち与えるほどに、輝きが増すものと心得よ」。思わずうなずく金言ばかりなのだ。

虚無蔵にその晩年の姿が色濃く投影されている斬られ役の名優、福本清三さんも、その真っすぐな人柄を映すような味のある言葉を残している。

60年代半ば、それまでよく言えば任せっきりに、ありていに言えば放置されていた「斬られ方」を事細かく指示する深作欣二監督に福本さんは「自分たちは指示が無くてもかっこよくできる。なぜ細かく言うのか」とかみつく。

深作監督は「(大部屋俳優には)台本が渡されていないから、ここで説明している。殺される意味、殺され方を知らなくてはならないんだよ」とこんこんと説明する。その場は決していい雰囲気というわけではなかったが、後日、福本さんは「いつも『おい』『そこ』と呼ばれていた、わしら大部屋俳優のことを、初めて名前で呼んでくれたのが深作監督だった」と振り返っている。

14年11月、初主演映画「太秦ライムライト」のプレミア上映がロサンゼルスで行われ、レッドカーペットを歩いた福本さんは「夢にも思わなくて足がガクガクです。いただいた拍手は、私の宝物。あとわずかな命ですが今後もこれを糧に頑張っていきたい」。

同じ年の12月、日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎特別功労賞を受けると「斬られた時は痛みを感じるくらいに倒れなあかん。努力すれば願いがかなうわけじゃないが、努力を捨てたらあかん。置かれている立場の中で一生懸命やるしかない」と語った。

虚無蔵のセリフほど洗練されているわけではないが、どこをとっても斬られ役の矜恃(きょうじ)がにじんでいた。【相原斉】

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