突然の涙だった。WBAスーパー&IBF世界ミドル級の王座統一戦(9日、さいたまスーパーアリーナ)で敗れ、王座陥落した村田諒太(36=帝拳)が試合後の会見で声を詰まらせ、涙を流した。

 会見の冒頭で「まだ感情がわいてくる時点ではなく、負けたんだという事実をもうちょっとしたら受け入れはじめ、感情もわいてくると思います」と語っていたが、話すうちに徐々に感情をあらわにしていった。

 新型コロナウイルス禍で2年4か月も試合から遠ざかり、ずっと追い続けた憧れのゲンナジー・ゴロフキン(40=カザフスタン)と対決が実現。その経緯を振り返った村田は「自分の強さを証明したかった。中学校の時にすぐに逃げ出す弱い自分だったり、高校生の時も全日本で決勝までいったのにビビッて試合にならなかった思い出。北京五輪も真剣に勝負できないまま終わってしまった自分がふがいなくて」と胸の内を明した上で「ちゃんと人に向かっていく、自分自身を律して恐怖に向かっていったんだ、自分自身を乗り越えたんだっていう気持ちを得たいと思ってやってきた」と熱弁した。

 そして迎えた運命の日。試合会場に向かう途中で帝拳ジム・本田明彦会長の「最後に楽しんで来い」という言葉が心を打った。

「そうだよなって。プロに来て憧れの選手と試合できて…。ゴロフキンと打ち合えて、意外といけてるし、ボディーが効いたとか。どこまでたってもボクシングファンっていうのがあるのかもしれない」

 そう言ってボクシング人生を回想した村田は「プロに来てから全然、楽しくなくて。勝たなきゃいけないし…」と言ったところで泣いた。涙をぬぐいながら「金メダルを取ってプレッシャーがあったんですけど。最後に楽しんで来いって言われたのがすごくうれしくて。楽しめばいいんだって」と続け、最後は「でも楽しくなかったですけどね」と、いたずらっぽく話した。

 自身の心を言葉に変え、感情が揺れ動いた記者会見。その約20分に村田諒太という人間が凝縮されていた。