歌舞伎座「四月大歌舞伎」が2日に初日を迎えた。第3部、片岡仁左衛門と坂東玉三郎が出演する「ぢいさんばあさん」が絶品だったので、記しておきたい。

伊織、るんという仲むつまじい夫婦が、ある事情から離ればなれになり、37年ぶりに再会する物語。役者は初々しい若夫婦から、白髪になって足元もおぼつかない老夫婦までを演じる。

若夫婦の時代は、夫が職務で京に上るという前日が描かれている。みずみずしくて躍動感のある仁左衛門の伊織と、気品とかわいらしさが同居する玉三郎のるん。互いを思う気持ちが十分に伝わってきて、あっという間に2人を好きになる場面の連続だ。

伊織とるんの間には、心と心が通い合う情愛が見てとれる。ただ仲がいいというだけではない、ソウルメイトという雰囲気がある。だからこそ、37年ぶりに再会を果たす後半は自然で、見ていても心が乗る。

髪が真っ白になった2人が、手を取り合う場面や、笑い泣き抱き合う場面、何度も拍手が起こった。クスッと笑えるしぐさや言葉もあれば、離れた時に赤ん坊だった子はどうなったかを話したり、泣けて笑える。再会できたことの喜ばしさと同時に、この夫婦に37年間を一緒に過ごさせてあげたかったと感じる。ただのハッピーエンドではなく、切なさもむなしさも感じるあたりが、何度も上演され愛される理由の1つなのかもしれない。

「ぢいさんばあさん」は森鴎外の短編小説をもとにした作品を、宇野信夫が歌舞伎作品にした。これまでたくさんの役者が演じてきた名作だ。仁左衛門と玉三郎、仁左衛門が孝夫時代からコンビとして人気だった。並んだ時の麗しさはもちろん、芝居の上では誰も立ち入れない世界をつくる。この2人が同作で夫婦を演じるのは94年が最初で、今回で12年ぶり5回目。

仁左衛門は演じるたびにせりふに工夫を重ね「心温まる好きな狂言」とし、玉三郎も「お互いにすっと入れる役」と話している。2人ならではの「ぢいさんばあさん」をぜひ。桜が印象的に登場するので、この季節にもぴったり。いいお芝居見たなあ、としみじみと感じた。【小林千穂】