ボクシング史に残る大激闘だった。WBAスーパー&IBF世界ミドル級の王座統一戦(9日、さいたまスーパーアリーナ)でゲンナジー・ゴロフキン(40=カザフスタン)に敗れた村田諒太(36=帝拳)が10日、一夜明けた今の気持ちを明かした。

 2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得。プロ転向してずっと追いかけてきた最強の相手・GGGと対戦が実現した。負けはしたが、試合後のリング上で「こんなラッキーな男はない」と満足げに話した。

 これまでのボクシング人生にはないモチベーションがあった。ゴロフキンとの対戦が決まり「満足しちゃいそうな時もありましたね」と振り返ったが、その中で88年ソウル五輪シンクロナイズドスイミング銅メダルでスポーツ心理学者・田中ウルヴェ京さんに「戦う理由があるのでは」と言われ、ハッとした。「そもそも何のために試合したいのか。底辺を忘れずに」というメッセージだったという。

「自分は、お金を稼ぐというのが一番楽な考えで、簡単で吹っ切れる。そう思うとお金を稼ぐことと考えたけれど、それは違うと。最強というものに挑戦し、自分を納得させるための試合と考えました。昔から北京五輪予選も本気になれなかったり、逃げてばかりだった。向かっていく強さ、内面的な強さを得たい、確認したい。自分はそこだと思った。自分への挑戦だと思って、リングに向かえた。心技体が整えられました」

 今までにない充実感を味わう一方で、肉体は悲鳴を上げている。無事にリングを降りたものの、村田は「今は痛いところがある」と明かした。

「首、肩、あごが痛いです。1か月前からコーヒー断ちしていましたが、飲んだら口の中が痛くて染みます。それだけ(ゴロフキンの)パンチをもらったということです」

 高い技術でガードのすき間を縫ってきたゴロフキンのパンチ。村田は「技術のセンスを感じました。パンチの入れ込むところの多彩さが違いました。いろいろな角度からパンチを入れてくるので。その殴る感覚というか、その幅の差を感じましたね」と振り返る。

 ボクシング史に刻まれた一戦を経験し、達成感あるのか? 村田は「2年4か月間ですか、コロナ禍で練習を継続しやってこられた自己肯定感はある。びびりな自分がここまでよくやれたなと思います。プロにならずに一度は大学職員やっていた人間ですから。自己肯定感は持てるかなと思います」と独特の表現で感慨に浸った。