作家井上荒野氏の同名小説が原作の映画「あちらにいる鬼」(廣木隆一監督、11月公開)のキャストに、寺島しのぶ(49)豊川悦司(60)広末涼子(41)が決定した。

同作は荒野氏の父である作家井上光晴氏と母、そして昨年11月に死去した瀬戸内寂聴氏をモデルに、男女3人の”特別な関係”を描いた小説。光晴氏と長年にわたり男女の仲だった寂聴氏の関係を、2人の女性の視点から、彼女らの関係と心模様の変化を深く掘り下げた作品は、世間の大きな反響を呼んだ。荒野氏が小説を執筆する際には、寂聴氏は協力を惜しまず、次のようなコメントまで発表した。

「モデルに書かれた私が読み傑作だと、感動した名作!! 作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は5歳だった。5歳の娘が将来小説家になることを信じて疑わなかった亡き父の魂は、この小説の誕生を誰よりも深い喜びを持って迎えたことだろう。作者の母も父に劣らない文学的才能の持ち主だった。作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう」

ダブル主演を務めるのは寺島と豊川。寺島演じるのは寂聴氏をモデルにした人気作家長内みはる。豊川は光晴氏をモデルとした作家白木篤郎を、広末は篤郎の妻笙子を演じる。脚本は荒井晴彦氏。寺島と豊川は「やわらかい生活」で初共演後、「愛の流刑地」「劇場版 アーヤと魔女」など何度も共演している。生前、今作の映画化の話を聞いた寂聴氏はとても楽しみにしていたという。

寺島らはそれぞれコメントを寄せた。

◆寺島しのぶ 

何度も撮影が延長され半ば諦めかけていたのですがやっとインできそうです。そうこうしているうちに私の年も寂聴さんが得度式をされた年と同じになりました。井上荒野様からも心強いお手紙をいただきました。これを宝物に最も信頼している荒井晴彦さんや廣木監督とまた作品作りができること、豊川さんとまたお芝居できることに胸が弾み広末さんとも不思議な関係性が築けそうです。今から崖の下をチラチラ見てはちゅうちょして、いずれ捨て身で飛び込もうとしている自分を鼓舞している毎日です。

◆豊川悦司

男にも女にも家庭があって、それでも磁石のようにひきつけあって、どうしようもなく、あがくすべもなく、ただ相手を見据えて、しがみついていく2人。しがみつく2人にしがみつく家族。スキャンダルという理由は、彼らが文化人であったというだけのこと。寺島しのぶと、男と女、それだけを演じてみたい。

◆広末涼子

とても大人な台本に、果たして私がついて行けるか? いまだ不安なまま撮影開始となりそうですが、間違いなく魅力的な寺島さんと豊川さんのお姿がおのずと私をも導いてくださる予感がしております。撮影の日を楽しみに精いっぱい頑張ります。よろしくお願いいたします。

◆廣木隆一監督

物語を語ることでしか存在できない男を巡って女は現実を生きる。いや男と女というよりも、同じ時間を過ごした大人たちのラブストーリーを、このキャストで演出することに何か不思議な感じがしてワクワクします。どこまでが虚でどこまでが創作なのか。原作者の目を通して描いた彼らの関係を映画化できることに感謝します。ぜひ鬼の正体を劇場で確認してください。