【取材の裏側 現場ノート】日本代表監督を務めたイビチャ・オシム氏が死去した。享年80。旧ユーゴスラビア代表監督としてイタリアW杯で8強入り。あのスペイン1部レアル・マドリードも監督候補としてリストアップしていたという世界的な名将だった。

 オシム氏が日本代表監督に就任後、北海道で講演を行うという情報をキャッチ。講演終わりのオシム氏を直撃するため、新千歳空港で待ち受けていると、現れた指揮官は嫌な顔を見せず、取材に答えてくれたが、ひと区切りついたところで「君はジェラードとランパードについてどう思うんだ」と逆質問された。

 オシム氏はかねてプレースタイルの似ているイングランド代表を支えるスター2人について、同時起用は難しいという見解を持っており、日本代表のMF中村俊輔とMF遠藤保仁に置き換えていた。なんとか知っている情報を〝総動員〟して返答したものの、納得する見解が出せなかったためか「こんな話題は嫌いか?」というと、近くにあったソファに腰を下ろし、当時イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに所属したクリスチアーノ・ロナウドに浮上していたスキャンダルについて「彼はハメられたのかもしれないな」など、欧州サッカー事情を踏まえて独自の見解を披露してくれた。

 後に日本サッカー協会の幹部は「オシムさんはメディアだけじゃなくて、スタッフに対してもサッカーについて深く考えさせるため、わざと正解のないようなことを聞くんだ。考えさせることでいろいろなアイデアが出てくるし、チームを強化するためには、周りを強化することも必要と思っていたから」とし、オシム氏の真意を説明した。

 そんなオシム氏は日本の「おもてなし文化」に感銘を受け、関係者にお中元やお歳暮を欠かさなかったという。さらに代表でスタッフミーティングを行う時は、自らが選んだケーキを持ち込みコーチ陣に振る舞った。残念ながら2007年に脳梗塞を患い、代表監督を退任することになったが、いつも記者たちをワクワクさせてくれる指揮官だった。ご冥福を祈りたい。(サッカー担当・三浦憲太郎)