劇団四季史上最大のオリジナルミュージカル「バケモノの子」が4月30日からJR東日本四季劇場[秋]で開演した。新型コロナウイルス禍の直撃を受けた20年前半は1103回の公演中止、約99万人の動員と売上の3割(約85億円)を失い、2年という組織存続の〝デッドライン〟も出した四季。その危機を乗り越えつつある今、どこを目指すのか。吉田智誉樹劇団四季社長(57)に話をきいた。


 ――現在の状況は

 吉田社長 最悪の状況からは脱しています。2年というのは20年前半の状況が続いた場合です。第5波が収束した昨年末はほぼコロナ前の状況を取り戻しました。我々は12月決算ですが下期は黒字、回復基調に入ったという印象です。

 ――コロナ禍は続いている。これからは

 吉田社長 収入の多様化、マネタイズの多様化は研究していく必要がある。やはりオリジナル作品を作ることですね。輸入して上演している「ライオンキング」のようなものは、我々が日本国内でできることには限りがある。でも我々自身がグランドライセンスを持っている作品に関しては、映像の使用やマーチャンダイズ、輸出もできる。

 ――つまりディズニー原作の舞台と、細田守監督によるアニメーション映画が原作の「バケモノの子」の舞台は違う

 吉田社長 違いますね。「ライオンキング」はプロダクションがクリエイターを集め、今の演出や上演の方法を全部考えて作っている。我々はそのままパッケージで輸入している。「バケモノの子」も同じように元の映画がありますが、ここから舞台にするクリエイティブ作業に関しては我々自身が行っている。その権利は持っているので舞台に関しては改編や輸出も可能。今のディズニーが行っているように、他国にパッケージで売ることも可能です。浅利慶太時代のオリジナルは一部、中国で売られていますが、この方法は台本と楽曲のみのライセンスです。

 ――今後は輸出を視野に原作を選ぶのか

 吉田社長 そういう視点は持っていたほうがいいですが、背伸びはしないほうがいい。まずはしっかり日本のお客様に感動を届ける仕事をしていきます。

 ――コロナ禍を通じ気づいたことは

 吉田社長 ライブエンターテイメントというのは不自由なエンタメなんです。集まって稽古し、お客様にはわざわざ足を運んでいただく。でもこの不自由さがもたらす感動の力は、とても大きいのではないか。

 ――もう少し詳しく

 吉田社長 国や自治体からは配信などの手段を考えたほうがいいというアプローチもあり、我々も行いました。全国の方が同時にご覧いただける貴重な手段だと感じました。でもそれはやはり「舞台」ではないんです。我々がお客様に提供できる一番大きな部分というのは、代替する技術があってもなんとかなるものではないんだな、と思いました。舞台では同じ空気感の中で演者と観客が一緒に心を動かす。一種の同時性です。でも同じ舞台は二度とない。不自由性の中で同時性と一時性が輝く瞬間、簡単に言えば「生の良さ」。これがもたらす力というのはとても大きいと思うんですよ。演劇にかかわる人はこの「生の良さ」を信じて仕事を続けているのだと思います。