まさかの黒星発進だ。大相撲夏場所初日(8日、東京・両国国技館)、横綱照ノ富士(30=伊勢ヶ浜)が小結大栄翔(28=追手風)に一方的に押し出されて完敗。3場所ぶりの優勝へ向けて不安を感じさせる滑り出しとなった。3月の春場所は右ヒザと右かかとの故障で途中休場。横綱として初めて15日間を全うできなかった。今場所は、本来の力強い姿を取り戻せるのか。照ノ富士の肉体を熟知する人物に現状を聞いてみると――。

 本来の横綱の姿ではなかった。照ノ富士は立ち合いから大栄翔に突き起こされて、ズルズルと後退。劣勢を挽回できないまま、力なく土俵を割った。黒星発進となった取組後は、報道陣の取材に応じることなく国技館を後にした。春場所は右ヒザと右かかとの故障で6日目に途中休場。優勝争いどころか、横綱として初めて15日間を全うできなかった。

 その横綱は今場所、ファンの目の前で本来の力強い相撲を見せることができるのか。この日の取組前、照ノ富士の稽古を見守った伊勢ヶ浜部屋専属トレーナーの篠原毅郁氏は「かかとの痛みは大丈夫。(古傷の)ヒザの痛みは仕方ない部分があるが、動き自体は悪くない。いい感じで気合が入っていると思う」と現状を明かしていた。

 休場後はサプリメントやプロテインの摂取をやめて、代わりにビタミンCを取り入れた。篠原氏によると、新陳代謝を向上させることが目的で、先場所と比べて筋肉の張りが目立つようになったという。また、故障箇所の改善で神経質になることもなくなり「部屋の中では非常に表情が明るい。(先場所前は)見られなかった」(篠原氏)と、精神面に余裕が生まれていることもうかがわせた。

 その一方で、不安要素がなかったわけではない。篠原氏は「先場所は6日目に休場して半分以上相撲を取っていなかったので、勝負勘を戻すのが大変だと思う」とも話していた。横綱として初めて休場し、番付発表前に行われた合同稽古への参加は最終日の1日のみにとどまった。しかも、この日は苦戦が目立つ押し相撲の相手。実戦感覚を完全に取り戻せていない影響が出た可能性もある。

 日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)も「照ノ富士は(上体が)高かった。(本人の中では)残れる感覚だったと思うが、あのあたりが休場明けということだ」と指摘した。とはいえ、横綱が出場した以上は優勝争いをすることが最低限の務め。このまま〝負の連鎖〟に陥らないためにも、まずは1勝で流れを変えたいところだ。