【赤坂英一 赤ペン!!】天国の野村克也さんが聞いたら、目を丸くするか、それとも目を細めるか。首位戦線を走る楽天・石井GM兼監督が最近、試合前の囲み取材でよくこんな話をしている。

「いろんなことがある中でこの位置にいるのは、(選手)みんなの頑張りかな。僕はどれだけやるかわからないけど、このチームは来年、再来年と続いていくんで、ちゃんと選手を作っていかないといけません。それが、チームに身を置いている責任。常勝チームにすることが、僕がここに来た時(2018年)からのメインテーマですから」

 今季は、昨オフに日本ハムを解雇された西川、19年に西武からFAで加入した浅村らが打線をけん引。投手陣では早川、岸、田中将ら先発の柱が試合を作っている。そうした中、石井監督が大事だと強調するのが若手に経験を積ませること。

 そんな石井流抜てきの成功例の一つが、4月28日のロッテ戦(ZOZOマリン)で、球団最年長記録の25歳でプロ初勝利を挙げた藤井だ。この2年目左腕を一軍に合流させた6日前から、石井監督はこう“予告”していた。

「藤井は先発で投げさせたい。枠が一つ二つ空いてる中で、ファームではよく藤井の名前が挙がってる。彼が頑張って課題を一つ一つつぶしてるからですよ。(一軍で)登板したら死に物狂いで勝利をつかみ取ってほしい」
 藤井のプロ初勝利は、そんな石井監督の親心のたまものでもあったのだ。

「(野手では)武藤とかも結構いいし、黒川も高打率をキープしてるし、村林もしっかりバスターを決めてくれたりして、随所にいいところが出ている。そういう意味ではレギュラーを脅かす、下からの突き上げができているのかなと思います」

 その若手たちは、なぜ突然の起用に応えることができるのだろうか。

「控えでいるとき、自分がいたらどうしたらいいのかと、いつもベンチで考えている。そうすればスムーズに試合に入っていけますよね。そのへんを意識してやってくれているからだと思います」

 そう語る石井監督は、ヤクルトでの現役時代、野村監督の指導法を熱心に観察していたという。野村監督はいつも、選手の成長段階に合わせて、接し方や言葉の選び方、声をかけるタイミングをさまざまに使い分けていた。

 こういう手法を、石井監督はかねて「選手の現在地を測る手段」と表現。それが今、楽天での選手の見極めと起用法に役立っているわけだ。天国のノムさん、やはり今ごろはさぞかし目を細めていることだろう。

 あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。日本文藝家協会会員。最近、Yahoo!ニュース公式コメンテーターに就任。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」(講談社)など著作が電子書籍で発売中。「失われた甲子園」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他に「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。