【ニュースシネマパラダイス】どうも! 有村昆です。北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故は、大変痛ましいニュースでした。乗客14人の死亡が確認されたものの、船長を含む12人の行方は今も分かっていません。今回の事故で浮き彫りになったのは、運航会社「知床遊覧船」のズサンな運航管理と、桂田精一社長の無責任な会社運営ですね。そこで今回は“企業体質”という観点から、佐藤浩市、渡辺謙主演の映画「Fukushima50」(2020年)を取り上げたいと思います。

 原作は、門田隆将氏の著書「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」です。2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、福島第1原発事故が起こりました。最悪の場合、東日本が壊滅する、存亡の危機です。同作は、渡辺さん演じる福島原発所長の故吉田昌郎さん(13年に死去)をはじめ、約50人の作業員、通称“フクシマ50”の闘いを描いているのですが、これが胸を打たれるんですよ。

 全電源が消失し、外部からの連絡も遮断された福島原発。もはや作業員が原子炉内部に突入して人力で制御するしかありません。とはいえ内部は、20分で放射線量が21シーベルトを記録する高線量空間になっています。100ミリシーベルトで人は死んでしまうとされる中、電波決死隊が組まれるのです。作業員は文字通り決死の覚悟。自分たちが死ねば、地元の人、ひいては日本がダメになってしまう。だから死ぬわけにはいかない。でも、内部の危険度は尋常ではありません。結果的に最悪の事態は回避されるのですが、後に吉田所長はこんなメッセージを残したそうです。

「オレたちは自然の力をナメていたんだ。10メートル以上の津波は来ないとずっと思い込んでいた。確かな証拠もなく、福島第一原発ができて40年以上、自然を支配していた気になって慢心していた」

 翻って今回の遊覧船の事故は、まさにこれと同じことをしていたと言えるのではないでしょうか。一つは「お客や部下の命を軽くみていた危機管理不足」、そして二つ目は「自然の力をナメていた」ことです。

 もし吉田所長のメッセージを教訓にしていれば、尊い命が犠牲になることはなかったかもしれません。自然の恐ろしさ、そして東日本大震災を忘れないためにも「Fukushima50」をオススメしたいと思います。

 ☆ありむら・こん 1976年7月2日生まれ。マレーシア出身。玉川大学文学部芸術学科卒業。ローカル局のラジオDJからキャリアをスタートさせ、その後映画コメンテーターとしてテレビ番組やイベントに引っ張りだこに。最新作からB級映画まで年間500本の作品を鑑賞し、ユーチューブチャンネル「有村昆のシネマラボ」で紹介している。