俳優井上芳雄(42)が、70年以上にわたり世界で愛される名作ミュージカル「ガイズ&ドールズ」(帝国劇場、6月9日初日)で天才ギャンブラー、スカイ役に初挑戦する。長引くコロナ禍で誰もが疲弊する中、ミュージカル界のプリンスと親しまれる彼が、最高に明るくてかっこいい王道のラブコメをセレクトした。「別世界に飛べる」ミュージカルの強さを、今こそ実感しているという。

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作品は1950年に米ブロードウェーで初演され、トニー賞8部門に輝いたミュージカルコメディーの名作。井上は「このご時世だからこそ、明るくて楽しいこの作品のパワーをお見せしたい」と自信をみせる。

女性にモテる天才ギャンブラー、スカイが、慈善活動に打ち込む堅物女性サラと恋に落ちるラブコメディーだ。モテ経験の共通点を聞くと「僕は1人の人と真剣にお付き合いしたいタイプなので、女性に深入りしないスカイとはちょっと違うかも」と笑う。キレキレの二枚目像は、84年の大地真央以来、宝塚歌劇のトップスターが演じてきたイメージが強い。「大地さんと比べられたら困る」とあせりながらも「心の機微など、生身の男が演じる良さを出せれば」と話す。

サラ役の明日海りお(36)とは初共演となる。「僕の妹(初輝よしや)の宝塚時代の同期で昔からよく知っている。今までお兄ちゃん的な気持ちでいたので、恋人役でガッツリ共演とは。妹の友達相手に何やってんだと」と、巡り合わせに感慨深げ。「スカイもサラも、しっかり自分を持ちつつ、自分にないものを探していて、ぶつかり合いながらも『この人なんだ』と分かっていく心の動きは感動的。ドラマチックな2人をしっかり演じたい」。

小学4年の時に見た「キャッツ」に衝撃を受けてミュージカル俳優を志し、この道一筋でやってきた。東京芸大声楽科在籍中の00年に「エリザベート」の皇太子ルドルフ役で鮮烈にデビューして以来、20年以上“ミュージカル界のプリンス”と親しまれている。

「最初の役が皇太子だったことも大きいですよね。プリンスを重荷に感じたことはないです。いっぱいいますから、ミュージカル界のプリンスは。ふふ。むしろ今年43なので、どこがプリンスなんだよと、いつか怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしています」

デビュー時のインパクトと、柔軟な発信力でミュージカルの認知度を格段に上げ、その功績は計り知れない。「頑張りたいんですよ。プリンス観で言えば、小説の『幸福な王子』みたいなタイプが性に合っているのかも。あそこまで人のためにボロボロにはなれないけど、俺が俺がと行き詰まるより、ジャンル全体で盛り上がろうぜ、みたいな方が自分もやりやすい」。

あらためてミュージカルの魅力を聞くと「別世界、夢の世界に飛べるジャンプ力が、演劇の中でも特に強い」。「この『ガイズ&ドールズ』も、1930年代のニューヨークという別世界に連れて行ってくれる。ダンスと音楽と物語。目にも耳にも楽しく、エンターテインメントとして強いなあと思います」。

今や日本テレビ「行列のできる相談所」の新MCや、「ZIP!」の5月金曜パーソナリティーなど、情報番組でも引っ張りだこ。「僕はスカイみたいな天才ギャンブラーではないけれど、できるかできないか分からなかったら、やってみようというタイプ。40過ぎてこんなチャンスをもらえること自体、すごいことだから」。プリンスは、いよいよ進化中である。【梅田恵子】

◆井上芳雄(いのうえ・よしお)1979年(昭54)7月6日、福岡県生まれ。東京芸大声楽科卒。00年「エリザベート」の皇太子ルドルフ役でデビュー。「ミス・サイゴン」「モーツァルト!」など数々の作品で活躍。06年に読売演劇大賞杉村春子賞、08年に菊田一夫演劇賞。4月から日本テレビ系「行列のできる相談所」MCを務める。16年に女優知念里奈と結婚。182センチ、血液型A。

◆ガイズ&ドールズ 天才ギャンブラーのスカイ(井上芳雄)と慈善活動に打ち込むサラ(明日海りお)、14年間も婚約中のギャンブル仲間ネイサン(浦井健治)とダンサーのアデレイド(望海風斗)。2組のカップルの恋のゆくえを描く。1950年に米ブロードウェーで初演され、トニー賞作品賞、主演男優賞、主演女優賞など8部門受賞。本作では、世界的に注目を集める若手演出家マイケル・アーデン氏が最新演出を手掛けることも話題。