全国が注目する山口県阿武町の誤送金問題が急展開だ。県警は18日、振り込みが誤給付金と知りながら、別口座に移し替えて不法に利益を得たとして、電子計算機使用詐欺の疑いで住民の無職田口翔容疑者(24)を逮捕した。4630万円が回収不能になっていた問題は事件化。逮捕前になって田口容疑者は返金の意思を示していたが、これから所得税の問題も浮上してきそうだ。

 田口容疑者には1世帯10万円の新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金が全対象世帯分となる4630万円振り込まれており、回収できなくなっていることが全国的な騒動となっていた。

 これまで返す意思がないかのような田口容疑者だったが、逮捕前になって一変。代理人弁護士によると、「お金を使ってしまったことは大変申し訳なく思っています。少しずつでも返していきたい」と反省を口にしていたという。これを受けて阿武町の花田憲彦町長は「素直に喜びたい」と述べ、「裁判の中で包み隠さず真実を語っていただきたい」と期待した。

 逮捕容疑は4月12日、阿武町から4630万円が誤って振り込まれたと知りながら、オンライン決済サービスで自身の口座から決済代行業者の口座へ400万円を振り替えた疑い。県警によると「オンラインカジノに使った」と供述し、容疑を認めている。

 同カジノで4630万円を使ってしまったとの報道もあり、町民の怒りは怒髪天を突くといったところだろうが、少しだけ前進した感がある。一方で田口容疑者にとっては、刑事処分だけで事が済まない可能性がある。それは所得税の問題だ。1世帯10万円の給付金そのものは本来課税対象ではない。田口容疑者の口座には本来の10万円とは別に、4630万円が誤給付された。誤給付分は所得扱いされるのか。

 元衆院議員で弁護士、さらに税理士の資格も持つ横粂勝仁氏は「犯罪で得られた収入にも税がかかるようになっています」と指摘した。田口容疑者が返金しなかった場合、所得扱いとなり所得税を支払わねばならないという。「雑所得となり、男性の給与所得などが分からないので正確な額は出せませんが、おそらく1500万円ほど所得税が発生すると思われます」(横粂氏)

 返金しないまま来年になって納税をしなければ税務署が動く可能性があったという。「納税しないなら脱税となり得ます。騒動が有名になったので税務署が注目するのは間違いなかったでしょう」(同)

 あくまで理論上の話だが、民事で町から4630万円の返金を求められ、さらに所得税約1500万円の支払いまでも求められるという事態もあり得た。

 気になるのは田口容疑者がお金を返す意思を示したことで所得扱いにならなくなる可能性があるのかどうかだ。横粂氏は「最終的には税務署の判断ですが、一般的にはやはり返金の意思のみでは足りず、実際に返金するか、少なくとも裁判外または裁判上の和解等により返還債務が書面上確定する必要があると思います」と返金の意思だけでは所得税から逃れられないと指摘した。

 田口容疑者が返金の意思を示したとはいえ、どれだけ阿武町が取り戻すことができるかは不透明。横粂氏が「今回の件は隙間に落ちたケース」と評するように、ふさわしい法律がないような印象もある。再発防止のために検証は不可欠だ。

【電子計算機使用詐欺罪とは】パソコンやATMなどの電子機器に虚偽の情報を与え、不正な記録を作り利益を得た場合、10年以下の懲役に科される。刑法246条2項で規定され、1987年の刑法改正で導入された。今年1月には、架空名義のアカウントを複数作成し、宅配注文サイト「出前館」を初めて利用した際に与えられる割引クーポンをだまし取ったとして、男が電子計算機使用詐欺容疑で警視庁に逮捕された。