万全でなくても勝つ。大相撲夏場所12日目(19日、東京・両国国技館)、横綱照ノ富士(30=伊勢ヶ浜)が関脇若隆景(27=荒汐)を退けて9勝目(3敗)。もろ差しを許しながらも、両腕で抱え上げて力強くきめ出した。取組後は「落ち着いて取れたかな。(きめ出しは)体の反応に任せた」と貫禄を漂わせた。

 V争いでトップの幕内隆の勝(27=常盤山)を1差で追走。古傷のヒザに不安を抱える中で奮闘を続けている。その照ノ富士の治療やサポートにあたった経験がある同愛記念病院副院長の中川照彦氏は「(ヒザは)万全ではない。安定性がなくて押し込まれると踏ん張りがきかない。(負けた相撲は)踏ん張るとさらに痛めるリスクが高まるから、土俵を割るしかないという感じではないでしょうか」と指摘する。

 ただ、残り3日間に関しては「心配ないと思います」とも付け加えた。この日や9日目にきめ出しを選択したのは、ヒザの負担を減らす狙いもあるという。「ゆっくりヒザを運んでいましたし、強引ではありませんでした。無理するとヒザを痛めるので変に投げられたり、ねじったりしないように気をつけているんだと思います」(中川氏)

 今場所は1分超の長い相撲がないこともプラス材料だ。中川氏は「横綱自身、疲労は想定内でしょう。また(取組が短いのは)それだけ負担が少ないということ。悪化させた様子もないですし、大丈夫だと思います」と分析した。古傷に細心の注意を払って土俵に立ち続ける姿は、まさしく第一人者。優勝戦線から脱落した大関陣との違いがここにある。