エースにまた一歩前進だ。巨人は20日の阪神戦(甲子園)で延長12回までもつれた死闘を6―2で制し、4連勝で首位に再浮上した。大きな収穫だったのは初の完封勝利こそお預けとなりながらも、8回無失点の好投を披露した戸郷翔征投手(22)だ。大黒柱への昇華を期待される若武者は、原辰徳監督(63)から言動に至るまでの激烈な〝エース教育〟を施されていた。

 敵地での伝統の一戦は、今季最長5時間3分に及ぶ壮絶な総力戦となった。延長12回に立岡と代打・中田の連続適時打などで勝負を決めたが、7人の投手陣をつぎ込み、残された野手も小林と岡田の2人だけだった。

 そもそも長期戦となったのはデラロサの誤算だ。2点リードの9回二死一塁から登板し、大山に痛恨の同点2ランを被弾。守護神の大勢は3連投を避けるためこの日はベンチ外で、その存在感を改めて知らしめる格好となってしまった。原監督もデラロサの失点は想定外で「野球というスポーツは非常に難しいし、われわれも予想もしないようなことが起きうる」と戒めた。

 そんな中でも躍動したのが次期エース候補だった。戸郷は8回まで116球を投じ、4安打6奪三振。連続四球を与えて招いた8回無死一、二塁のピンチも無失点で切り抜けた。6勝目はデラロサの背信投球で夢散したが、指揮官も「すごく良かったと思いますね。完封というものも挑戦させようかと思ったんですけど、8回がああいう状態だったので万全を期して2人(今村とデラロサ)に託した」とたたえた。

 戸郷は昨季まで2年連続で9勝止まり。もうひと皮むけさせるため、プロ4年目の若武者に対する指揮官の〝エース教育〟も格段にレベルアップした。それは右腕の内面を表す発言のチェックにまで及んだ。今春のキャンプではこんなひと幕もあった。

 戸郷にとっては2月15日に行われた日本ハムとの練習試合(那覇)が、今年初の対外試合。2回3安打1失点だった登板後には、課題や修正点を挙げながら「1点は取られましたけど、僕の中では上出来かなと思います」などと話した。その数日後、我慢ならなかったのが原監督だった。

 別の若手の話題をしていた最中に「昨年のコントロールの悪さというものをまだ引きずっている。それが『まあまあだったんじゃないですか』というようなコメントを出していた。戸郷なんかそんな感じじゃなかった? 違った!? あったでしょ」と〝思い出し怒り〟。突き放すように「まあいいや」とそれ以上の言及は避けたが、チーム関係者は指揮官の思いをこう代弁した。

「戸郷には大きく育ってもらいたい一心だと思うよ。先発ローテの6人はチームの顔であり、それだけの責任もある。それなのにキャンプの時期とはいえ、〝まずまず〟という自己評価に甘えがあると感じたんだと思う」。さらに「監督も強い言葉を発信する時には相手のことも考えている。戸郷は特に負けん気が強い選手だし、ハネ返してくれると思っているからこそでしょう」とも付け加えた。

「しっかりと抑えられましたし、自分がやるべきことはできた」と充実感を漂わせた戸郷。真のエースに昇華するべく、指揮官との〝二人三脚〟は続いていく。