英国の「軍人の妻」合唱団の実話を、傑作コメディー「フル・モンティ」(97年)のピーター・カッタネオ監督が映画化した。

20日公開の「シング・ア・ソング」は、数ある「合唱団もの」の決定版と言える作品だ。

09年、アフガニスタンの戦況悪化で国内からの派兵が続き、基地に残された妻たちの不安の日々が始まる。電話が鳴る度に頭をもたげる嫌な予感、頻繁に起こる戦地との連絡不能の度に味わう居ても立ってもいられない思い。カッタネオ監督は、一見平穏に見える生活に秘められた妻たちの心境を序盤で巧みに伝える。

物語を引っ張るのは、大佐夫人のケイトと、世代は一回り下で夫人会の代表になったばかりのリサだ。

夫人たちの不安解消の一助として合唱団を作ろうと提案するのはケイトだが、しゃくし定規な物言いは夫の階級を鼻にかけているようにも見え、ちょっと浮いている。軍人となった1人息子に戦死され、その喪失感が上から目線に輪を掛けているところがある。

リサは対照的にカジュアル派で、1人娘の反抗に手を焼いていることもあって合唱団などの面倒には関わりたくない。が、実は若い頃から音楽に親しみ、作曲の才能に恵まれている。

ケイト役は「イングリッシュ・ペイシェント」(96年)のクリスティン・スコット・トーマス。英仏からの叙勲歴もある名演技で、このとっつきにくい女性になりきっている。リサ役のシャロン・ホーガンはテレビの人気コメディー番組の脚本、主演でならした生粋のコメディエンヌだ。まさにはまり役×2。「映画の9割は配役で決まる」を地でゆくキャスティングで、それぞれ役柄の表裏を照らし合う最高のコラボを見せている。

2人のやりとりを息を潜めて見守る夫人会のメンバーは、いかんともしがたい不安からしだいに合唱に向き合うようになる。そして、避けることのできない「悲しい知らせ」も届く。それを乗り越え、やがては軍上層部に認められ、ついに大舞台に立つことになるのだが…。

ケイトとリサ、そしてそれぞれに事情を抱えた夫人たちは、ぶつかり合い、やがて共通の目標に向かう。打ち解け合うというよりは、嫌いでもその考え方を理解し、しぶしぶでも認め合う感覚だ。

大団円に至るまで、現代に求められる自制の効いた心の持ちようを、改めて考えさせられる。それでも心温まるラストシーンには元気をもらえた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)