山口県阿武町が誤って振り込んだ、新型コロナ対策の臨時特別給付金4630万円を誤入金と知りながら、一部を別口座に移し替えて不当な利益を得たとして、電子計算機使用詐欺容疑で無職田口翔容疑者(24)が逮捕された事件で、出金先の一つの決済代行会社から3500万円余りが町の口座に振り込まれていたことが23日、分かった。容疑者が使い切ったと思われた金はなぜ残っていたのか? なぜ容疑者ではなく町の口座に振り込まれたのか? 裁判への影響は? さまざまな疑問について専門家が解説した。

 田口容疑者の弁護士によると、阿武町は4月8日に臨時特別給付金10万円に加え、4630万円を容疑者の口座に振り込んだ。容疑者は19日までに34回にわたり計約4633万円を出金。主な出金先は国内の決済代行会社3社で、そのうち27回の計約3592万円が1社に集中していた。関係者によると、この会社から阿武町の口座に3500万円あまりが振り込まれていたという。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「田口容疑者はオンラインカジノをやるつもりで、海外への送金を行う業者にプールした状態だったということでしょう」と解説する。

 なぜ決済代行業者は返金したのか? 井上氏は、2016年に埼玉県でオンラインカジノの決済サービスを行っていた業者が千葉県警に逮捕された事例を挙げる。

「業者は『送金を手伝っていただけで賭博をやっていたわけではない』と言っていたが、県警は送金業者とオンラインカジノをやっていたサイトは一体で賭博をやっていたと認定して逮捕した。今回の業者も、田口容疑者が送金してまだオンライン賭博をやっていなかったとしても、決済をすることで日本国内で賭博をやらせていたと警察が認定すると、ガサ入れどころか逮捕される可能性がある。警察が来る前にややこしいお金を返そうとしたのではないか」

 今回の事件は、田口容疑者が「海外のインターネットカジノで全部使った」と代理人に話したことで、決済業者にも「グルなんじゃないか」などと注目が集まった。

「決済業者にすれば、もし田口容疑者がマネーロンダリングのためにウチを使ったとなると、銀行法違反や資金決済事業法違反というもっとややこしいことになり、国税まで出てくる。反社とのつながりや反社のフロント企業なんじゃないかということまで調べられるし、もし本当に反社と関わりがあれば、罪だけではなく本丸の方まで捜査が伸びるので、そちらのお仲間からも追及されかねない」

 ちなみに、オンラインカジノとインターネットカジノとは違うという。

「オンラインカジノはインターネット上のサーバーを使って、海外では合法のポーカーやバカラをやらせること。一方、インターネットカジノは自分のところで賭けさせて支払いまでやるので賭博開帳図利罪になります。ですのでオンラインカジノは海外にサーバーがあり、日本で賭博開帳しているわけではないのでグレー、インターネットカジノは違法になります。つい先日も名古屋のインターネットカジノ業者が逮捕されていました」

 田口容疑者がこの違いを認識した上で、「カジノ」について代理人に説明していたかは不明。

 決済業者が阿武町に返還したことについては「容疑者に戻すと、また別の業者に送ってしまう可能性もある。そんな不正なことには手を貸しませんと考え、阿武町に返したのでは」。一番大きな金額を扱っていた業者が返したことで、ほかの決済業者が後に続く可能性も考えられるという。

 理由はさておき約7割の金が返金された。田口容疑者の裁判にも影響はあるのか。弁護士法人至道法律事務所の岡筋泰之弁護士は「被害回復がなされ、損害がかぶらずに済んだというのは情状の対象になります。本人からではないとしても、被害回復されたことで田口容疑者に有利に働く可能性があります」という。

 田口容疑者に給付金や弁護士費用など約5115万円を求めて提訴している阿武町は23日、「係争中のため、お答えは控える」とコメントした。