昨年11月に99歳で亡くなった作家瀬戸内寂聴さんに、17年間密着したドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」(中村裕監督)が27日、全国公開され、都内で、中村監督(62)が友人でもある大島新監督(53)とトークショーを行った。

中村監督はNHKスペシャル「いのち 瀬戸内寂聴 密着500日」で、15年のATP賞ドキュメンタリー最優秀賞などを受賞。寂聴さんから「あんた、私が死ぬまで撮りなさい」と言われ、カメラを回し続けてきたという。

「Nスペもやっているし、どうアウトプットしていくかを考えました。そして恋バナしかないだろうと。ただ、寂聴さんは多くのファンがいましたが、私のことをどれだけの人が見たいのか不安でした」と話したが、今作は、母親、先輩、友人あるいは恋人のような形容しがたい2人の関係性によって仕上がった。

寂聴さんは監督のことを「親子みたい」と話していたが、中村監督は「僕は男女の関係ですよと答えていました」。中村監督はバツイチで元妻と再度結婚した。だが、1月2日に監督が寂聴さんを撮影しているときに、妻から「もう家を出ていく」と電話があったという。すぐに寂聴さんに電話を代わり、1時間半にわたり説得してもらったが、寂聴さんは「あれは意思が固い。あんたの奥さんはたいしたもんね」と。中村監督は「あれだけ人生相談を受ける人が説得してダメなんですから。あきらめました。でも、寂聴さんには僕のこんなダメな部分があって好かれたのかもしれません」。

寂聴さんは「くぼみのあるタイプが好き。そのくぼみを埋めたくなるんだけど、埋まってしまうと興味がなくなる」と語っていたという。出家の理由も「自分ではわからない」と話していたが、中村監督は「男女の性愛は制御できない。愛の本質を書きたい人なので、邪魔な部分を断ち切るには、出家しかないと判断したのではないか」と推察した。

最後に、中村監督は「プライベートが強い映画です。寂聴さんの普段の様子、チャーミングなところ、かわいいところが先生らしい。モノを書く時は迫力があり、おかしいと思うことがあれば、反戦も反核もすぐに行動に移していました。ウクライナの戦争について、先生だったらどうしたでしょうか。先生の言葉をかみしめてもらえれば」と話した。