仲代達矢(89)が30日、石川県七尾市の能登演劇堂で、主宰する無名塾公演「いのちぼうにふろう物語」(9月4日~10月10日、同演劇堂)の会見を行った。

役者生活70周年の締めくくりを飾る公演となる。演出家、脚本家の妻宮崎恭子さんの遺作を、夫妻で監修した劇場で上演する思いを語り、あらためて現役続行を宣言した。「いしかわ百万石文化祭2023」のプレイベントで、全30回のロングラン公演。

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仲代は、隆巴(りゅう・ともえ)のペンネームで活躍した宮崎さんの写真を前に「亡き女房が残してくれた無名塾という財産とともに、健康に感謝し、足腰がきく限り、体力が続く限り、声が出る限り、もう少し頑張りたいと思っております」と力強く語った。

「いのち-」は山本周五郎の「深川安楽亭」をもとに、宮崎さんが亡くなる直前まで脚本に取り組み仕上げた。97年に追悼公演として初演、04年に再演された。それ以前にも映画、ドラマ化されており、仲代は「幾度もともに作り上げてきた」と思いを込める。

昨年から今年にかけての役者生活70周年。先月、全国巡演「左の腕」を終えたばかりだが、精力的に「いのち-」に取り組んでいる。7月の稽古開始を前に、すでにせりふをさらいはじめた。「今年90歳になる私はせりふを覚えるのが大変。若者以上に頑張って、作品を仕上げたいと思います」と意欲を語った。

今年は無名塾に新人8人が入塾した。若い世代と舞台に立つことも大きな刺激だ。「師匠格という一面はありますが、まだ現役の役者。指導しながらも、この若者に負けてたまるかという気持ちもどこかにある。それが現役を続けている理由になっている気がします」と話した。

「日本は80歳を過ぎると名優扱いをしてくださいますけど」と苦笑いしつつ、「もう少し、もう少しやってみたい。これが最後だという引退興行は、してみたいと思いますけど何となくできなくて、ぐずぐずしています」。1日1時間のストレッチ、公園ウオーキングなど体力維持には余念がない。「平凡な毎日です」と謙虚に言うが、たゆまぬ向上心を感じさせた。

「役者はいろんな人物になり、人間とは何者か、どういう生き方をするかを出す商売」と言う仲代。無償の愛を描く「いのち-」で「人間の信頼というものを見てほしい」と話した。【小林千穂】

<仲代達矢80歳以降の主な活動>

▼80歳 舞台「ロミオとジュリエット」など3作、映画「日本の悲劇」など5作

▼81歳 舞台「バリモア」、ドラマ「罪人の嘘」、映画「ジョバンニの島」

▼82歳 舞台「死の舞踏」「おれたちは天使じゃない」など3作、映画「ゆずり葉の頃」など5作

▼83歳 ドラマ「コールドケース~真実の扉~」など2作、日本アカデミー賞協会栄誉賞

▼84歳 舞台「肝っ玉おっ母と子供たち」、映画「海辺のリア」

▼85歳 映画「返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す」など2作

▼86歳 舞台「ぺてん師 タルチュフ」、映画「ある町の高い煙突」など2作

▼87歳 映画「帰郷」▼88歳 舞台「左の腕」

▼89歳 舞台「いのちぼうにふろう物語」、映画「峠 最後のサムライ」(6月17日公開)

※映画はナレーション、声の出演含む

○…仲代は83年に能登を家族で訪れ、中島町(現七尾市)の豊かな自然と人情に感銘を受けたという。85年から無名塾の合宿稽古を行うようになり、95年に仲代夫妻監修の能登演劇堂が開場。無名塾「ソルネス」でこけら落とし公演を行い、「マクベス」などのロングラン公演、全国巡演の皮切り公演などを行ってきた。能登を「第2のふるさと」ととらえており、市民と一緒に舞台を作り上げる。「いのち-」も市民エキストラを募集する。