“ながら聞き”がフツーの時代になる! スマホの普及とともに“ながらスマホ”は社会問題化されたが、目を奪われなければ人間の可能性はもっと広がる。人類がもっとも簡単に情報を入手できる時代はもうすぐそこ。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(55)と音声コンテンツの最前線を取材した。

 音声コンテンツが活況を見せている。その背景にあるのは、米アップル「AirPods」に代表されるワイヤレスイヤホンやAmazon「Alexa」で知られるスマートスピーカーなどオーディオ環境の圧倒的な変化がある。

「2016年にAirPodsが発売された直後はまだワイヤレスイヤホンを使っている人は少数派でしたが、今や街中でも電車内でもワイヤレスばかり。私もAirPodsを使っていますし、家では妻も『アレクサ、今日の天気は?』とスマートスピーカーを愛用しています」(渡辺氏)

 音声コンテンツを配信するサービスはポッドキャストを中心に拡張し続けている(図参照)。世界のポッドキャスト市場をけん引する「Spotify」に追いつけとばかりにGAFAも音声テクノロジーに多額の投資をしている。

 なぜ音声コンテンツに視線が注がれるのか? 日本発の音声プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」のブランディングマネージャー・長谷部祐樹氏はこう語る。

「ユーチューブを始め動画全盛期ですが、動画は撮影や編集に多くの時間とコストを要するので制作者が限られます。また見る側の目を占有しないと成り立たないメディアです。音声の最大のメリットは“ながら聞き”ができること。スマホの登場によって情報を持ち歩けるようになったことも大きな変革でしたが、画面を見ずに情報を得られるようになれば、情報を得るために費やす手間や時間がさらに減る。ここに大きな可能性があると見ています」

 目の可処分時間がもうほとんど残っていないなら、耳を奪えばいい。一見強欲にも見えるが、忙しい人ほど音声コンテンツを重宝しているという。いったいどういうことなのか?

「働くお母さんは一日中忙しくてゆっくり本を読んだりテレビを見たりする時間がありません。家事をしながら、子供を寝かしつけながらちょっと別の情報を聞いてひと息できる。そういった感謝の声を多くいただきました。また、人が語る声にはぬくもりがある点も重要です。動画やテキストのように加工が施された情報に疲れを感じている人でも声ならリアルに話し手の心の動きを感じられる。ボイシーでは共働きのモヤモヤなどを話しているワーママはるさんが人気です」(長谷部氏)

 思ったことを素直に伝えやすい、その結果として炎上しにくいというのも音声メディアの特徴だ。最近ではお笑い芸人の有吉弘行が自身のラジオ番組で亡くなった上島竜兵さんへの思いを語ったことは記憶に新しい。

「人の心に刺さりやすいメディアであることから、この先はデジタル音声広告市場が広がることも予測されています。2025年には約420億円、現在のラジオ広告市場の半分ほどになるという予測もある。同時にラジオの価値も見直されていて、コロナ禍でラジコのユーザーがものすごく増えましたしね。音声の可能性はまだまだ広がっていくでしょう」(渡辺氏)

 今はまだ若年層が中心の音声メディアブームだが、日本語のディープラーニングが進んでいけば、視覚や聴覚が不自由になった高齢者ともスムーズに会話ができるようになるとシニア市場にも期待が寄せられている。

 なお、東京スポーツ新聞社も現在ボイシーで「東スポCH!」を放送中。思わず誰かに話したくなるようなニュースをパーソナリティーの楓あんとデスクがクロストークでわかりやすく解説している。

 また、渡辺氏は経済アナリストの馬渕磨理子氏と2人で、6月5日から毎週日曜朝6時半からTOKYO FM「馬渕渡辺の#ビジトピ」で音声メディアに参入。ビジネストピックの仕組みや話題の裏側を話すという(ポッドキャスト「AuDee」でも特別版を放送)。

 ☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「LiveNewsα」レギュラーコメンテーター。