音楽家の坂本龍一(70)が11日正午(日本時間)、無観客で事前収録した2年ぶりのピアノ・ソロコンサート「Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 2022」を、世界約30の国と地域に配信した。この第1回目の配信は、同時視聴が3万人を超え来週、中国本土でも配信を予定しているという。

坂本のピアノ・ソロコンサートは、コロナ禍の20年12月12日に都内のスタジオで無観客で行い、ライブストリーミング配信して以来。今回の配信を前に、坂本は「この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」と語った一方、配信ライブ内では「自分としては、ここにきて、割と新境地」とも語った。

坂本は14年に中咽頭がんを患い、寛解したものの、21年1月には直腸がんの治療を公表。さらに今年6月7日発売の文芸誌「新潮」7月号で、自身のがんがステージ4で両肺に転移した、がんの摘出手術を21年10月と12月に受けていたことなどを明かした。その上で、直腸がんの公表から1年の間に、直腸の原発巣と数カ所の転移巣を摘出する、20時間に及ぶ外科手術など、大小6つの手術を行っていたことも明かしていた。

坂本は現在も闘病を続けており、今回の配信を前に「ライブでコンサートをやりきる体力がない。この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」と語っている。ライブは、坂本が「日本でいちばんいいスタジオ」と折り紙をつける東京・渋谷のNHK放送センターで今年9月中旬に、1日に数曲ずつ、丁寧に収録された演奏とその映像を、十分な時間をかけて編集したものだという。

ライブは配信のうち、前半の60分強を占め、坂本は13曲を演奏した。その中には、71歳の誕生日を迎える23年1月17日にリリースする、約6年ぶりのオリジナルアルバム「12(トゥエルブ)」に収録の「20220302-sarabande」も含まれた。坂本は1人でピアノに向き合い1つ、1つ、確かめるように鍵盤を弾いた。9曲目には、78年結成のイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の代表曲の1つ「Tong Poo(東風)」をセレクト。ややスローながら、慈しむように丁重に弾きながら、リズミカルに頭を振り、口元に笑みを浮かべた。

11曲目には、米アカデミー賞で日本人初の作曲賞を受賞した「The Last Emperor(ラストエンペラー)」を演奏。右手で落ちた眼鏡を持ち上げるほど、力強く鍵盤をたたくように弾き上げた。そして12曲目には、自身が映画に初出演し、音楽も担当した大島渚監督の映画のメインテーマ「Merry Christmas Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)」をチョイス。坂本は、慈しむように細やかに弾きながら、ライブの中で唯一と言ってもいいほど終始、笑みを浮かべて弾き、最後には力強く鍵盤に両指を落として演奏を終えた。その後、ピアノの前で、拍手するように両手のひらを合わせた。

最後となった13曲目「Opus-Ending」の演奏を終えた坂本は、動画でコメントを発表。

「楽しんでいただけましたでしょうか? 今回は初めて、ピアノソロで弾く曲も、ずいぶんあってですね。ピアノソロ用のアレンジには、ずいぶん慎重に考えて時間をかけてやりました。また、選曲も、ずいぶん慎重にやったんで…自分としては、ここにきて、割と新境地かな、という気持ちもあります」と語った。

ライブの配信後には「12」の視聴も行われた。坂本は「僕の、新しいアルバム『12』を視聴していただけます。闘病中、1年半くらいがたって、いろいろスケッチというか、音の日記みたいなものを書いてきたんですけども…その中から12曲、選んで来年、23年1月17日、僕の誕生日にリリースする予定ですけど今回、特別に視聴していただけます。どうか、映像はないんですけども、音だけ楽しんでいただけたら、と思います」などと語った。

関係者によると、今回の配信ライブの収録を機会に、主要メンバーをニューヨークから招集した映画製作チームが結成され、単に配信映像をつくるためだけでなく、後に「コンサート映画」を別に編集する予定だという。そのために「演奏する坂本龍一」を丹念に撮影したと説明した。

配信ライブのセットリストは、以下の通り。

<1>Improvisation on Little Buddha Theme

<2>Lack of Love

<3>Solitude

<4>Aubade 2020

<5>Ichimei-Small Happiness

<6>Aqua

<7>Tong Poo

<8>The Wuthering Heights

<9>20220302-sarabande

<10>The Sheltering Sky

<11>The Last Emperor

<12>Merry Christmas Mr.Lawrence

<13>Opus-Ending

「Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 2022」は、日本時間で11日午後6時、深夜0時、翌12日午前6時からの計3回、同内容のものが配信される。