#Me Too運動が、ハリウッドでは「神」と呼ばれた大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を明るみに出したことはよく知られている。が、この発端となったニューヨーク・タイムズ紙のスクープ記事掲載までのいきさつについては、ほとんど認識がなかった。

「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」(13日公開)は、胃がきりきり痛むようなその道のりを描いている。

(C)Universal Studios. All Rights Reserved.
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調査報道で実績を残してきたジョディ(キャリー・マリガン)は妊娠中の身で、大統領選挙中の「トランプ候補」のセクハラ疑惑を精力的に取材し、本人からのののしり電話にも「これでコメントが取れた」と、しれっと笑顔を見せる。

だが、トランプは当選。保守系メディアによる非難の雑音が聞こえ続けたこともあって、産休中には産後鬱(うつ)に悩まされる。

一方、子育てをしながらタフに仕事に取り組む同僚のミーガン(ゾーイ・カザン)の元には希代の大物プロデューサー、ワインスタインの周辺から彼の性犯罪の情報が寄せられ、多角的な取材をスタートしている。

上司のレベッカ(パトリシア・クラークソン)は、職場復帰したジョディに「仕事で産後鬱を乗り切れ」と励まし、ミーガンとのコンビによる「ワインスタイン告発」をバックアップする。そして、2人の伴侶や職場の男性たちは彼女たちの仕事ぶりを理解し、全面的に協力している。

「大統領の陰謀」(76年)の頃はもちろん、その立役者の1人だったボブ・ウッドワードが今回のレベッカと同じ編集局次長に出世して活躍する「ペンタゴン・ペーパーズ」(17年)で描かれた新聞社内は、まだまだ男社会でゴツゴツしていた。すっかり洗練され、「女性の働きやすい職場」になっていることに隔世を実感する。そんな「理想の環境」に支えられながらも、彼女たちの取材は難航する。

被害者の女優たちは、告発に踏み切れば今後の仕事を失うリスクがあり、スタッフの女性は多額の示談金による秘密保持契約で口を封じられていた。さらにワインスタインは政界やメディアに強大な影響力を持っていた。

映画は現代社会にも、「当たり前」が通用しないダークなエリアがまだまだ存在していることを浮き彫りにする。彼女たちはいかにしてアリの一穴をこじ開けたのか。マリア・シュラーダー監督が淡々と描く「取材の手口」はスリリングで、結末は分かっていても、最後までハラハラさせる。

時に自身の弱みも隠そうとしないマリガンの演技は、相手に心を開かせる取材巧者を印象づける。喜怒哀楽は眉の動きで伝え、目はいつもまっすぐ前を見つめるカザンはこの記者の意志の強さを醸し出す。

ニュース発信を象徴する描写は、これまでなら輪転機から刷り出された瞬間や売店に運ばれた新聞に踊る見出し-だったと思う。が、今回は整理部長と覚しき男性がノートパソコンの「リリース」にカーソルを合わせてポチッ。ここにも時代を象徴する描写がある。       【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)