がんで闘病中だった音楽家の坂本龍一(さかもと・りゅういち)さん(本名同じ)が、3月28日に亡くなった。71歳だった。2日、所属事務所が発表した。14年に中咽頭がんを患い、寛解したものの、21年1月には直腸がんの治療を公表。昨年にステージ4で、1年で6つの手術を受けたと告白した。3月26日には、音楽監督を務める東北ユースオーケストラ演奏会の東京公演をインターネット上で見守り、絶賛のコメントを出していたが、その2日後に力尽きた。

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「教授」の名で世界に知られた、坂本さんが逝った。所属レーベルのエイベックスは2日夜「2020年6月に見つかった癌の治療を受けながらも、体調の良い日は自宅内のスタジオで創作活動をつづけ、最期まで音楽と共にある日々でした」と、その死を公表。「坂本自身の強い遺志により、葬儀は近親者のみで済ませております」とした。

坂本さんは14年に中咽頭がんを患い、寛解したものの、21年1月には直腸がんの治療を公表。昨年6月7日発売の「新潮」7月号でステージ4で両肺に転移した、がんの摘出手術を21年10月と12月に受けたと明かした。また直腸がんの公表から1年で直腸の原発巣と数カ所の転移巣を摘出する20時間に及ぶ外科手術など、大小6つの手術を行ったことも明かした。

昨年12月11日には同9月中旬に収録、編集した2年ぶりのピアノ・ソロ・コンサートを世界配信。「初めて、ピアノソロで弾く曲も、ずいぶんあってですね。アレンジは、ずいぶん慎重に考えて時間をかけてやりました。選曲も、ずいぶん慎重にやったんで…自分としては、ここにきて、割と新境地かなという気持ちもあります」と語っていた。

6月2日公開の、是枝裕和監督(60)の新作映画「怪物」の音楽を担当した。ただ「残念ながら全体をお引き受けする体力はなかった」ため書き下ろしはピアノ曲2曲にとどまり、誕生日の今年1月17日にリリースした、約6年ぶりのオリジナルアルバム「12(トゥエルブ)」の収録曲や過去の楽曲も使い全体を構成。3月5日には、03年から20年放送し、ナビゲーターを務めてきたJ-WAVE(東京)の番組「RADIO SAKAMOTO」が最終回を迎えた。テキスト・コメントで出演し、1月11日に亡くなった盟友・高橋幸宏さんの楽曲5選も紹介と“終活”とも取れる動きもしていた。

社会貢献活動にも力を入れ、東日本大震災復興支援のために、被災した岩手、宮城、福島の学生の楽団「東北ユースオーケストラ」を13年に立ち上げた。2月には東京都の小池百合子知事らに、明治神宮外苑地区の再開発の見直しを求める手紙を送っていた。

反戦の立場も明確に打ち出した。昨年の東北ユースオーケストラ東京公演では「3・11とともにウクライナのことを思い浮かべちゃう。自然災害と戦争は違う…でも、鎮魂という意味では共通。失ったものに対する懐かしさ、鎮魂は音楽を作る人間の心の根っこにある」と、ロシアのウクライナ侵攻について言及した。

今年の公演は配信で見守った。東京終演後、病床に伏した中、最後の力を振り絞ったであろう

「Superb! Bravissimo(拍手×5)素晴らしかった!! よかったです。みんなありがとう(拍手×3)お疲れさまでした♪」

が最後のメッセージとなった。

◆坂本龍一(さかもと・りゅういち)1952年(昭27)1月17日、東京都中野区生まれ。音楽家、俳優。78年テクノバンド「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成。「戦場のメリークリスマス」「ラストエンペラー」など映画音楽でも知られ、米アカデミー作曲賞受賞。地球温暖化を危惧し2007年に森林保全団体「モア・トゥリーズ」を設立。国内外で間伐・植林の他、東日本大震災の被災地で地元木材を使った仮設住宅の建設支援を行ってきた。前妻のミュージシャン矢野顕子との間に長女の歌手坂本美雨。